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インタビュー企画の仕掛け人

(Tue Jul 17 12:00:00 JST 2012/2012年8月・9月号 Creativeが生まれる場所)

建学の思いに意味を与え 共感を呼び込む新聞広告[千葉工業大学 創立70周年広告]
渡辺潤平社   コピーライター   渡辺 潤平氏

渡辺 潤平氏

「技の国、ニッポン。」─大学の周年広告とは思えない大胆な全ページ広告が、5月15日の新聞に掲載された。この千葉工業大学の広告を制作したのは、マイケル・ジャクソン追悼広告(ソニー・ミュージックエンタテインメント)など話題の新聞広告を手がけてきたコピーライター渡辺潤平氏だ。渡辺氏に、広告とコピーが果たす役割を聞いた。

──渡辺さんが千葉工業大学の広告に携われたのは?

  初めてですね。突然、千葉工大の方から創立70周年を機に新聞広告を打ちたいという依頼を頂いたんです。大学はJRの津田沼駅前にあるのですが、僕は実家が船橋市で、高校にも千葉工大のキャンパスを電車の窓から毎日見ながら通っていた。当然、同級生も何人か行っている。これは何かの御縁だなと、お手伝いさせて頂いたんです。

──千葉工大はロボットで有名ですね。

  福島原発の現場で作業しているロボットのほとんどは千葉工大製だそうです。実は、お話を頂いたときは、そういうことを全然知らなかったんです。千葉工大には「fuRo(フューロ)」というロボットの研究開発機関があるのですが、その所長の古田貴之先生が大学の広報の責任者でもあって、最初の打ち合わせで僕の事務所にいらっしゃったんです。その時は広告ではなくて、ロボットでどこまでできるか、攻殻機動隊のようなロボットは実現可能なのかというようなメカ好きな男子が好きそうな話に終始したんですけど、すっかり先生の話に引き込まれてしまいました。同時に、その打ち合わせで、今回の新聞広告の輪郭が見えた気がしました。古田先生は千葉工大のシンボル的な方ですから、大学の一番根っこの部分、語りたい部分にその時点でたどり着けたと思いましたね。

──それが「技の国、ニッポン。」というキャッチコピーになった?

  今回の新聞広告は大きいことを語っていく広告にしたかったんです。最近は学生を獲得するために学部を増やしたり、学生にフレンドリーな施設を作ったりする大学が多くなっていますが、古田先生の話を聞いて思ったのは、千葉工大は非常にストイックに研究に邁進している「大学らしい大学」だということです。建学の理念にも「世界文化に、技術で貢献する」という力強い言葉を掲げている。それが新鮮でした。そこを強く打ち出したいと思ったんですね。

──特に意識したターゲットはあるのでしょうか。

  ターゲットは、もちろん大学に関わるすべての人たちですが、新聞は企業の経営者を含め、いろいろな人たちが見る。だから、「千葉工大さんの新聞広告、この前見たけど、カッコイイじゃないですか」と言われる広告にしたかったんです。僕自身も千葉県民なので過小評価されることには慣れているんですけど(笑)、千葉工大は大学の中身と世の中のイメージにギャップがある。そのギャップを埋めるためにも、今回は大きく構えたコミュニケーションが必要だと思ったんですね。

千葉工業大学 創立70周年広告

5月15日 朝刊

変わらないマスの力

──最近は、広告を使ってメッセージを伝えることが難しくなったと言われていますが。

  僕は、そう言っているのはメディアに関わる人たち自身だという気がするんですね。最近はむしろテレビCMが再び元気になってきたと肌で感じますし、新聞広告も力を落としていないと思っています。確かにメディアが増えていますから新聞を読む人は減っているかもしれないですが、新聞の情報を必要で読んでいる人は減っていないはずです。僕自身も、新聞を読んでいなかったらクライアントと話もできない。取材を受けて新聞に自分が出たときの反響も、他のメディアと比較できないくらい大きいと実感しています。
  それから、印刷のクオリティーも上がっている。千葉工大の広告でも、黒を中心とした微妙な色味の写真を使用しましたが、それがきちんと再現されました。 だから、新聞広告が効かないとしたら、むしろ作り手の問題だという気がするんですね。

──メディアの使い方についてはどう思いますか。

  僕も広告会社にいた頃は、メディアの使い方で新しさを創出することがクライアントにとってもいいことだし、作り手の価値を上げると思っていました。でも、フリーのコピーライターになって思うのは、まさに千葉工大の広告がそうですが、メディアの使い方より、クライアントの思いや目的を的確に伝える中身を丁寧に作ることのほうが断然大事だということです。広告の器はクライアントが決めてもいいし、腕利きのメディアプランナーがいれば、その人からアドバイスをもらえばいい。その器に合わせて盛りつけを変えていくのが僕らの仕事だと、今は思っています。
  僕自身の実感で言えば、フェイスブックやツイッターを使ったキャンペーンで、受け手として心地よかったことってあんまりないんです。それはなぜかと言うと、広告なのに広告じゃないかのようなフリをしているからだと思うんです。喜んでいるのは作っている側の人たちだけというキャンペーンがけっこう多い。新聞広告もテレビCMも、これは広告だということをきちんと人々が認識している。その中で何を語って、どう引きつけるかということがシンプルに試される場だと思うんですね。

コピーは主観的な作業

──渡辺さんの言う広告の力というのは何でしょうか。

  広告の力が数値化できるんだったら、こんなに簡単なことはないですよね。だけど広告はクリックを何回されたかではなく、例えば3年後、5年後、「あの『技の国、ニッポン。』の広告、覚えてる?」みたいなことが実は大事で、情緒として溜まっていくものだと思います。そこを作り手がしっかり自覚しないと、広告はますます薄っぺらなものばかりになってしまう気がします。

──これまでは、伝える方法に意識が行き過ぎていた?

  例えば、これまではオンラインの施策でも、仕掛けだけ作って肝心の伝える言葉は誰も気にしていなかった。だから、何をやっているのかよくわからないキャンペーンがいっぱいあったんです。そういう施策に対してコピーで明確な意味を与える仕事が最近、多くなっていますね。僕自身もコピーを書く場所が増えて、忙しくなっています。

──渡辺さんがコピーを書くとき大事にしていることというのは?

  コピーで大事なのは、その商品について自分が感じたことに、世の中の人がどれだけ共鳴してくれるかだと思います。だから、千葉工大の広告も、古田先生たちから聞いた話と自分が知り得る限りの千葉工大の情報を取り込んで、「僕が思ったことはこうです」と言っているに過ぎないんです。そういう意味では、極めて主観的な作業です。それに世の中の人たちがどれだけ共感してくれるかが、コピーライターの力量かもしれません。

──その判断基準は、どこにあるのでしょうか。

  自分の中に「これはいける」という感覚もありますが、クライアントの各セクションを通過していくスピードも判断基準になりますね。承認されるスピードが速いと、その広告はヒットすることが多い。どこかで引っかかるというのは、やはり、自分の切り出した主観的な視点がよくないということなんです。そういう広告の力が、今また改めて見直されてきていると思うし、そういう場で今後も、僕は勝負していきたいと思いますね。

渡辺 潤平氏

1977年千葉県船橋市生まれ。早稲田大学教育学部卒業。2000年博報堂入社。07年渡辺潤平社設立。千葉ロッテマリーンズ2005年間広告でTCC新人賞、INDIVI 「FITTING AD」でカンヌ国際広告祭・メディア部門ブロンズなどを受賞。ベネッセ進研ゼミ高校講座「攻!キャンペーン」など数々の広告キャンペーンを手がける。