adv.yomiuriトップページへ

ojoトップ  > インタビュー  > キーパーソン  > 斉藤茂一 氏

インタビューキーパーソン

(Wed Aug 05 10:00:00 JST 2015 /2015年8・9月号 リーディング・トレンド)

今回のテーマ 「インバウンド消費」
〜ニーズを汲み、日本らしいコンテンツの積極発信を〜

斉藤茂一 氏
レジャーサービス研究所 所長   

斉藤茂一 氏

円安やビザ発給要件の緩和などを受けて現在、訪日外国人が増えている。中国や台湾をはじめとする訪日外国人客による「インバウンド消費」が旺盛だ。今後、インバウンドをどのようにビジネスチャンスに繋(つな)げるか。中国人の旅行や消費事情に詳しい「レジャーサービス研究所」の所長、斉藤茂一さんに話を聞いた。

日本のインバウンド消費の見通しは?

  日本を訪れる外国人は2014年に1300万人を突破して過去最高となりましたが、世界の海外旅行者数は11億人を超えています。海外旅行者数が増えているのは世界的な潮流で、訪問した外国人客によるインバウンド消費が伸びているのは日本だけではありません。
  日本は幸い、中国など、近年経済発展を遂げて海外旅行者数が急激に増加した国々から近く、地理的に恵まれています。現在の円安による日本観光の「お得感」も追い風となっています。このため、今後もインバウンドの増加が見込まれますが、将来的には、欧米をはじめ、近隣では台湾、韓国など、日本よりも前からインバウンド消費の取り込みに積極的だった「インバウンド先進地域」との競争になります。受け身ではなく攻めの戦略が必要になります。

日本のインバウンド消費のカギを握るのは?

  現在、日本国内の小売りやサービス業は、中国人を中心に訪日外国人客が大量に商品を購入する「爆買い」の恩恵を受けています。しかし、「爆買い」という言葉は、決して良い印象を与えるものではありません。中国人の方に帰国後に実施したアンケートでは、「日本に滞在中、日本人と会話をする機会が一度もなく残念だった」というような回答もありました。現在、訪日した中国人の観光客向けに中国人の店員が中国語で対応している店舗がありますが、さらにその先のサービスとして、日本人の店員も中国語で話すことなどが、日本での旅行の思い出になる可能性もあります。
  日本のファンとなってリピーターとして日本に来てもらうには、訪日外国人客が望んでいることに目を向け、本当の意味での「おもてなし」を充実させることが大切です。

地方が訪日外国人客を増やすには?

  日本観光の定番とされる東京、富士山、京都、大阪などをめぐる「ゴールデンルート」などを除いては、訪日外国人客に足を運んでもらうための工夫が必要です。
  日本の地方自治体も、海外からの旅行者を増やすためにプロモーションはしていますが、都道府県や市町村など自治体単位の活動や発想には限界があり、各地方、地域の魅力を十分に海外の方に伝えることはできません。
  例えば、中国では日本の幕末の志士の人気は根強く、幕末に活躍した人々を多く輩出した山口県では、県単位で地域の観光資源を紹介するよりは、当時の「長州藩」の名前でアピールしたほうが興味を持つ人が多いでしょう。さらには、自治体の枠を越えて、当時、関係の深かった「薩摩藩」、現在の鹿児島県と合わせた観光ルートなど幕末の志士をめぐる旅として情報発信するほうが、足を運びたいと思わせることができるでしょう。このように、各国・地域の人々の日本観光に対する細かいニーズを汲(く)んだ工夫によって、訪日外国人客をより多く取り込めるようになります。

地方創生への筋道は?

  インターネットやソーシャルメディアの普及で、日本全国どこからでも世界に向けて情報を発信できるようになり、比較的経営規模の小さいホテルや地方の旅館にもチャンスが到来しています。ある旅館のおかみさんは毎日、庭園の様子を撮影しブログで紹介していたところ、エージェントを介さずに海外から直接問い合わせや予約が来るようになりました。台湾の人は日本の情報をネットでよく見ているので、台湾からさらに中国へと情報が流れます。日本語でも良いのでこうした小まめな情報発信がビジネスチャンスになるのです。
  また多趣味な日本人の国民性に合った様々なイベントが開催されており、これは日本観光を活性化させる重要なコンテンツでもあります。東京のみならず地方でも、スポーツの試合やコンサートなどが年間を通じて開催されているので、こうしたイベントを組み込んだ旅行プランは海外のファンの集客に結びつき、地方創生の契機になると思われます。

メディアとインバウンド消費の関係は?

  台湾の書店には日本コーナーがあり、昨今海外で人気の漫画だけでなく女性誌も高い需要があります。大半が日本語版でありながら、現地には固定読者が多くおり、彼らはそれらから得た情報や感想をネットで発信、それが世界各国で話題となる流れが出来上がりつつあります。日本の活字媒体も有効なメディアになり得るでしょう。
  中国に事業拠点を持つ私自身が常日頃から心掛けていることは「人と人との繋がり」です。インバウンド消費をビジネスに生かす上では、直接人と会って各国・地域の方々の必要としていることに真摯(しんし)に耳を傾け、信用性の高い情報を提供するメディアの価値が大きいのです。急速なネットの拡大で希薄になりつつある今だからこそ、日本らしい人情味あふれるコミュニケーションがビジネスの芽を生み出すかもしれません。

Shigekazu Saito

1962年東京生まれ。82年にオリエンタルランドに入社し、テーマパークの運営本部のトレーナーなどを務める。93年、ホテルやテーマパークの運営を計画・サポートするコンサルタントを開始。レジャーサービス研究所を立ち上げ、2009年に中国・上海に事業所を設立しインバウンド事業をスタート。著書に『中国人観光客にもっと売る新“おもてなし術”』など。