adv.yomiuriトップページへ

ojoトップ  > インタビュー  > キーパーソン  > 松岡真宏 氏

インタビューキーパーソン

(Mon Dec 07 10:00:00 JST 2015 /2015年12月・2016年1月号 リーディング・トレンド)

今回のテーマ 「時間価値と消費」
〜現在のヒット商品の点と点が「時間価値」という線でつながる〜

松岡真宏 氏
フロンティア・マネジメント   代表取締役

松岡真宏 氏

時間の価値をめぐる消費者の動きがかつてないほど活発化してきた。長年、流通小売り部門の証券アナリストとして活躍し、現在、企業の経営支援を行うフロンティア・マネジメント代表取締役の松岡真宏氏に、時間と消費の関係をどう見るかを聞いた。

時間の価値が注目される理由は?

  日本はかつて経験したことのない高齢社会に突入しました。少子化と高齢化が進み、国民の平均年齢はすでに45歳を超え、今後も上昇します。東南アジア地域など平均年齢の若い国と違い、国全体の平均年齢が上がると、平均余命が少なくなると考えてよいでしょう。個人レベルでも時間が希少価値となり、「いかに時間の価値を上げるか」という志向が強まっているのです。
  近年、スマートフォンなど携帯情報通信端末の普及で、個人が常に時間を有効活用できるサービスが生まれ、さらに都市部への人口流入が進んだ結果、都市部を中心により付加価値の高いサービスが実現できるようになっています。このことが、消費者の時間価値を重視するトレンドに拍車をかけています。

消費の二極化も影響?

  時間の価値を示す「時間価値」は、モノやサービスを使って時間を短縮させて有意義な時間を生み出す「節約時間価値」と、モノやサービスから有意義な時間を生み出す「創造時間価値」の大きく2つに分かれます。
  モノやサービスを提供する側である企業は、「節約時間価値」と「創造時間価値」について、消費者が求めているのはどちらを生み出すための商品・サービスであるかを明確に定義してマーケティングをしなければなりません。旺盛な高額消費と生活必需品などの低価格志向といった傾向を示す「消費の二極化」は、所得というよりは「時間価値」の二極化によっても起こっていると見ています。

ビジネスの発想の転換が必要?

  「時間価値」に焦点を当てると、消費者にとって商品の価値そのものが変わってきます。商品の開発段階から、どのように売るかまで、企業は対応が必要になります。
  例えば、食べ物の価格については、これまでは一般には「美味しい」といった味を基準に、価格が適当かどうかを判断していました。これを「節約時間価値」から見ると、消費者が商品購入して包装紙を開いて食べて捨てるまでの一連の時間について、いかに節約できるかどうかが価格を判断する基準になるのです。
  ビール一缶を購入する消費者は、「ビールを買って飲んで消費をする」という時間にお金を払うことになります。消費者にとっては、その時間にビールを飲むのではなく、他のことができる可能性があり、ビールメーカーは、「ビールを飲む時間は楽しいですよ」という創造的価値も提供する必要が出てきます。
  企業は「我々の商品とサービスを使うとこのように時間価値を高めることができます」といったアピールが必要で、従来、競争相手ではなかったところと、業界を超えた競争になっているのです。

価格設定を見直す?

  これまで企業は価格について製造業を中心に原価を積み上げて適正利益を足して設定するのが一般的でした。今後は、モノやサービスが提供する「時間価値」(節約時間価値と創造時間価値)に対して、消費者がどのくらいお金を払うか――といった逆の発想で価格を設定することができるのです。
  発想を変えた結果、従来の価格よりも低くなる場合も高くなる場合もあります。例えば、ネットスーパーであれば、消費者が「購入した商品を持って帰らなくてよい」という利便性だけに注目して低めの価格が設定されがちです。しかし、「店舗に出向いて商品を選んで購入して持ち帰る」のに要する一連の時間をネットでは消費者に節約させてあげることができる、つまり他のことに費やす時間までも提供していると捉えれば、それは時間が生み出す新たな価値であり、サービス自体の価値をも高めることができるのです。

マーケティングが変わる?

  人の消費行動についてのマーケティングでは、これまでは性年代別といった動かないものでセグメントして行われるのが一般的でした。従来型の静態的アプローチの効力が薄れ、消費行動はシーンやライフステージによる超細分化された「時間価値」によって変わってきています。同じ人であっても、また同じ人が同じ商品を買う場合であっても、消費行動は全く異なります。日々の動きによってランダムに変わってくるのです。

ビジネスチャンスは広がる?

  「節約時間価値」については、大手企業を中心に圧倒的な勝ち組企業が出てきますが、一方の「創造時間価値」は、人によって感じるものが違うため、さまざまな分野で新規ビジネスが生まれるでしょう。特定分野に絞り、とことん「尖っていく」ことで市場を開拓できます。大きな資本を必要としないため、アイデア次第で中小企業にもビジネスチャンスがあります。どの企業も、消費者を引きつけるため常に新しいサービスを提供し続ける必要がありますが、そこに経営の醍醐味があるのではないでしょうか。

Masahiro Matsuoka

東京大学経済学部卒業。野村総合研究所、バークレイズ証券、UBS証券を経て、2003年産業再生機構に入社。カネボウやダイエーの再生計画策定に携わり両社の取締役を務めた。07年フロンティア・マネジメント設立。著書に『小売業の最適戦略』(日本経済新聞社)、『百貨店が復活する日』(日経BP社)、『時間資本主義の到来』(草思社)、『「時間消費」で勝つ!』(日本経済新聞出版社)など。