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インタビューキーパーソン

(Mon Jan 28 12:00:00 JST 2013/2013年2・3月号 ojo interview)

染谷栄一 氏
アサツー ディ・ケイ   営業総括チーフディレクター

染谷栄一 氏

世の中を巻き込む広告会社の“司令塔”

  営業強化の一環で新年から新たなポストに就いた。「社内の専門部署の枠を越え、大きなフレームを組み、顧客への貢献度を上げていく司令塔的な役割を担えれば良いと思う。特に持続的な社会の実現とそれを支える次世代のためになる仕掛けが重要」と意気込む。底にあるのは「共有できる公益性の高い目標・ビジョンがあれば、みんながつながり、世の中を変える大きなエネルギーを発揮していく」という信念だ。
  入社して20余年。マーケティング部門、クリエイティブ部門で、顧客企業にもまれ、キャリアを積んできた。大学時代から、人間行動の背景にある行動原理を探ることにアンテナを張ってきた。好きな言葉は、長期記憶の源泉となる「エピソード」。「うれしい、楽しいといった感情に焼き付けられたエピソード記憶は劣化しにくく、またふとしたタイミングに再生されやすいから」と話す。
  どうしたら頭に残るものができるか考え、多くの人を巻き込みながら、新機軸を打ち出してきた。テレビドラマの最後に、そのメイキングシーンを織り交ぜながら、カメラマンなどのスタッフにフォーカスを当てる缶コーヒーのCMは、「ドラマ・イン・ドラマ」の先がけだった。
  仕事の幅を広げた転機は、北海道日本ハムファイターズの立ち上げメンバーの一人になったこと。理念・行動指針づくり、北海道民の球団としてのファンサービス第一に力を注ぐ一方、実際に試合を観戦しているファンの心拍数を調べるなど、人がファンになっていくメカニズムを解明する研究も行い注目を集めた。「ファンを広げていくメカニズムは、他の企業にも応用できるはず」と、目を輝かす。
  涙もろい。札幌ドームで、親子3代がレプリカのユニフォームを着て応援をしている姿を見てつい目頭が熱くなった。強みは「家族思い」と言い切る。どんなに仕事の帰りが遅くなっても、毎朝7時前に小学生の娘と出かける。良きパパである。

共有できるビジョンが社会を動かすエネルギーに
人と人をつなげるコミュニケーションに期待

──メディアの役割に大きな期待をお持ちのようです。

  社会的な責任を持っているメディアときちんと組んで、コンテンツをお互いが仕立てて良い方向に持っていくべきです。読売グループのように、メディア間の連携強化の動きがある中、我々がサポートすることで、次の未来につながるような夢のエピソードが見えてくると思います。
  新聞の役割はいくつかありますが、リアルな新聞は、宅配で届いている。パソコンやテレビ、スマートフォンなど画面の中の時間をどうシェアするかとは違って、時間と場所を区切っていくようなメディアは、今、価値を見直されているような気がします。

──ビジョンを共有できる人間が増えることが世の中を良い方向に持って行けるという考えをお持ちですね。

  企業のビジョンが共有されると、その会社の社員ではない人もその活動に参加したいと思ったり、商品を買いたいと思ったりします。ビジョンに公益性を立てることが肝心です。一事業会社の思いが波及して、参加者が増えていき、大きなエネルギーに変えられるような役割を我々エージェンシーが果たすべきだと考えます。特に持続的な地球環境と、それを支える次世代をサポートしていくことは、非常に公益性が高い。一事業会社を越えた、企業連携、地域連携が生まれやすいテーマです。世の中をパッと明るくしたいです。

──コミュニケーション産業は再定義の時代に来ていると指摘されています。

  もっと人と人をつなぎ、経済、社会をつなげる方向にシフトしなければならないと考えています。企業活動には、創造、競争、成熟の3つのステージがあり、成熟したら次は新しい価値をつくらなければいけません。目的自体を整理し、先鋭化させていくことで、コミュニケーション全体をつなぐ我々が、再定義を行う必要があると思います。

──ご出身の千葉県鎌ヶ谷市は北海道日本ハムファイターズの2軍の本拠地です。

  拠点が東京だった日本ハムファイターズ時代から通算、10年以上関わっていて、ご縁を感じています。みんなと勝ち負けを共有することはとても大きなエネルギーになります。「熱狂のメカニズムに関する研究」というタイトルで論文にまとめましたが、野球場はアイデンティティー、帰属意識を確認できる舞台です。会社や学校に帰属していることとはまた、別の意味を持っています。レプリカのユニフォームを着て応援している人は半纏を着て、祭りに参加しているようなものです。まさに地域をつなぐ舞台なんです。
  野球の試合では、物理的な欠乏感は満たされることがない代わりに、心理的な欠乏感が満たされるからこそ、長いときは4時間を超える観戦も楽しいエピソードをつくるのです。観戦する人は、試合の中にある様々な喜怒哀楽のエピソードを通して顧客化していきます。
  顧客化していない方々を優良顧客化するプロセスの中で、どのような心理的なインセンティブを提供すべきか、一般の企業活動にも展開できる話です。

文/小池俊幸  写真/小原啓樹

染谷栄一(Eiichi Someya)

千葉県出身。中央大学理工学部卒業。早稲田大学大学院修了。1989年に旭通信社(現アサツー ディ・ケイ)入社。主にマーケティング部門とクリエイティブ部門を経験。クリエイティブ戦略本部クリエイティブ開発局長、統合ソリューションセンターISCグローバル局長などを経て、今年1月から現職。企業のブランド戦略にも携わり、北海道日本ハムファイターズの立ち上げメンバーとして手腕を発揮。独立行政法人 産業技術総合研究所の客員研究員(昨年まで)として、プロ野球ファンになるメカニズムを研究。その成果は北米のスポーツマーケティング学会で発表された。