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広告リポートfrom Asia

(Mon Oct 05 10:00:00 JST 2015/2015年10・11月号 from Asia)

富士の高嶺に降る砂糖
堀井葉月   バンコク駐在

  『おたご』なる商品がある。フリーズドライのスープで、バンコクの小売店には大抵置かれている。だが、商品名の『おたご』とは何か。分からない。「お卵」の略だろうか。謎だ。これは“日本製品のように見せたい”タイ製品なのである。

  タイにおいて、“日本的なもの”は、信頼感や高級感に繋(つな)がると捉えられているようだ。だから、そのイメージに便乗する『おたご』のようなタイ製品は少なくないし、街中の至るところに文法の怪しい日本語キャッチコピーがあふれている。

  タイのティプコ社が販売する烏龍(ウーロン)茶『Tea Plus』はサントリーブランドであり、『おたご』のような“なんちゃって日本製品”とは異なるが、広告で日本的なイメージを前面に押し出している点が興味深い。一般的に烏龍茶の広告であれば、使用されるイメージは当然、中国のそれであろう。

  『Tea Plus』のプリント広告の中央にどっしりと鎮座する、茶葉で作られた富士山。ほんの少し冠雪しているように見えるが、それは砂糖である。富士山上空に浮かぶように、『Tea Plus』のペットボトルが配置され、ペットボトルと山頂の間には「less sugar, more tea」のキャッチコピーが書かれている。「砂糖は控えめに、茶葉をもっと」――ここで、タイの茶飲料事情を説明しなくてはいけないだろう。

  タイでは2005年ごろから、健康志向の高まりとともに茶飲料市場が拡大し続けている。ただ、製品のほとんどが甘い。日本人の感覚からするとジュースにしか思えない「ライチ味」や「すいか味」などのお茶も人気だ。そこで、『Tea Plus』はより本格的な健康飲料として、タイの茶飲料市場に投入された。茶葉が含有する豊富なポリフェノールと、砂糖使用量の少なさ(無糖の製品もラインアップ)が特長である。前述の広告では、茶葉の山とそれが頂くわずかな砂糖の雪で、製品のコンセプトを表現し、富士山というアイコンによって日本ブランドであることを主張。余白の多いシンプルな構成の中に、アピールポイントがギュッと詰まった秀逸なデザインである。

  なお、茶葉で作られた波(北斎の『神奈川沖浪裏』のフォルム)とその波頭に散る少量の砂糖、という同アイデアの別デザインもあり、これらは今年度の「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」印刷物部門でブロンズ・ライオンを獲得した。

  だが、このような洒落(しゃれ)たデザインのプリント広告をバンコクで日常的に目にすることはない。タイの動画広告はテイストが多様で内容も凝っているが、プリント広告は実にあっさりとして単調だ。食品・飲料の広告だと、俳優やスポーツ選手が商品の傍らで微笑み、「この商品は良いですよ(だから買ってね)」という構図がほとんど。往年のホーロー看板における大村崑のオロナミンC、松山容子のボンカレーの広告を思い描いていただければ、まさにその通りのものだ。タイ人スタッフいわく「プリント広告は何となく目に入って、ああ、あの商品かと思うだけ」――モバイル端末の人口普及率が100%を超え、動画広告の有効性が高いタイにおいて、プリント広告が担うべき役割は「注意深く見なくても理解できること」であり、ひねりの利いたデザインは求められていないのかも知れない。プリント広告の可能性を追求したい身としては、やや苦い思いがする。

堀井葉月・バンコク駐在

バンコクでのテロ以降、重い扉の閉まる音や雷の音に過剰反応してしまいます。爆発時、職場で聞いた音を思い出すためです。阪神大震災で被災した後は、しばらく特急列車の通過音を聞くたびに地鳴りを思い出し、体が固まっていました。音と記憶のリンクは密接です。