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ojoトップ  > 特集  > ファンとコミュニケーションする:伝わらない時代の 「伝わる」プランニング ―マスベースとファンベース―

特集ファンとコミュニケーションする

(Wed Aug 05 10:03:00 JST 2015/2015年8・9月号 特集)

伝わらない時代の「伝わる」プランニング
―マスベースとファンベース―   コミュニケーション・ディレクター   佐藤尚之 氏

佐藤尚之 氏

最新作「明日のプランニング」で、“さとなお”こと佐藤尚之氏は、最近はネットを積極的に使っている人と、情報に対して受け身でマス広告が有効な人たちに二極化していて、しかも、ネットを積極的に使っている人ほど自分に興味のない情報を届けるのは不可能になっていると言う。この絶望的な状況を乗り越えるにはどうしたらいいのか。「ファンベースとマスベース」の考え方について聞く。

半数超の人はネットを積極的に使わない

──さとなおさんが「明日のプランニング」を書かれた意図は、何でしょうか。

  実は、2005年ごろを境にコミュニケーションの流れは大きく変わったと思っています。マーケティングやコミュニケーションを語るにしても、今はネット中心になっている。次はネイティブアドだ、コンテンツマーケティングだと、ここ10年くらいネット万能のように語られてきました。そういう現状に対して、「本当かな」とずっと思っていたのです。ネット上では「テレビCMなんか誰も見ていない」ということを前提にしてマーケティング理論が語られています。しかし、実際にはテレビCMをやると発泡酒が売れ、ソーシャルゲームのユーザー数が確実に増えます。おかしいですよね。
  

  それで改めてメディア接触のデータを冷静に見ていくと、「ネットを毎日は利用しない人」が全国には約5670万人いる。それから「月に一度もパソコンから検索をしない人」、この数字にはスマホやケータイからの検索は含まれていませんが、これが約7539万人いる(図1)。日本の総人口は1億2700万人ですから、全国レベルで見ると、7000万人から8000万人の人たちはネットで積極的に情報を得ていないのです。

──ネットを日常的に利用していない人がそんなにいるのですか。

  ネットをまったくやっていない、というわけではありません。スマホでソーシャルゲームやライン、メールはやっている。しかし、自分で検索して積極的に情報を得る人たちではない。そういう人たちを加えると、テレビから得られる情報で十分満足している人たちが7000万人から8000万人くらいいるだろうということです。
  イノベーター理論で言うと、90年代後半からイノベーターやアーリーアダプターがネットを利用し始めたわけですが、時代を経るにしたがって世の中ネットだらけになるかと思ったら、実際はそうではない。レイトマジョリティやラガードといった人たちは、いまだにマス広告の世界に住んでいて、ネットの世界には入ってこない。だとしたら、ネットを積極的に利用している人たちと、そうでない人たちに同じコミュニケーション戦略をとっていいのか。テレビCMで「詳しくはウェブで」と誘導することが、果たして正しいのかということです。

情報“砂の一粒”時代へ

──バズマーケティングやコンテンツマーケティングで動くのは、4000万人くらいだということですか。

  「バズで商品は売れることは少ない」というのが僕の持論ですが、それは別にして、ネットを積極的に使っている4000万人にはネットで情報を伝えればいいかというとそうではありません。逆説的ですが、彼らには加速度的に情報が伝わらなくなっています。ネットが普及してから世界に流通する情報量が急速に増えたと言われますが、ここ数年の情報量の伸びは尋常ではありません(図2)。情報量を表す単位に「バイト」がありますが、「ギガバイト」以下、「テラバイト」「ペタバイト」「エクサバイト」「ゼタバイト」と千倍ずつ増えていきます。2010年には世界中で流れた情報が1ゼタバイトを超えたと言われています。1ゼタバイトは世界中の砂浜の砂の数と同じです。2020年になるとこれが40ゼタバイト、2025年頃になると66ゼタバイトくらいになると言われています。66ゼタバイトというのは目から入ってくる視覚情報の1年分の、さらに全人類分です。

──全人類分、ですか。

  そうです。ネットで企業が伝えたい情報は、生活者にとっては2010年時点でさえ、“砂の一粒”に過ぎなかった。こういう状況で、「いいものを作れば売れる」「バズれば知ってもらえる」「行動ターゲティングすれば買ってもらえる」と言えるだろうか。この状況を、僕は「情報“砂の一粒”時代」、略して「砂一時代」と呼んでいます。しかも、それが2020年になると40倍になる。もう絶対に見てもらえない、そう言い切ってもいい状況だと思います。

──いつ頃から、そういう状況になったのでしょう。

  総務省の「情報流通インデックス」(2011年)を見ると、日本国内では2005年から情報量が急増しています。このあたりが、コミュニケーションの大転換の時期だったと思いますね。この頃、情報量が増えた理由は、ブログとユーチューブの普及です。特にユーチューブは動画ですから、情報量が桁違いに大きいんですね。

友人知人こそ最強メディア

──そういう「砂一時代」に情報を伝えるには、どうしたらいいのでしょうか。

  僕が2011年に提唱した「SIPS」は、共感をベースにした消費行動プロセスでした。ソーシャルメディア上で人々は「共感」でつながっている。共感した情報のみ、人は友人知人に教えようとする。また、共感できる発信元(友人知人)のリコメンド(推薦)が大きな力を持っている。だから、共感をどう作っていくかがコミュニケーションの入り口になるというのが基本的な考え方ですが、「砂一時代」が進行すると、その最初の一歩、共感する情報を伝えることも難しくなるということです。どうしたらいいか、僕もかなり悩んでいたんですね。
  そんな時、アメリカで言われ出したのが「ファンベース」という考え方です。簡単に言ってしまえば、「人は友人知人、特にファンからの言葉でしか動かない」という考え方です。ファンというのは、その商品やサービスの熱心な支持者です。そういう人からの勧めでしか砂一時代の人たちは態度変容を起こさないんですね。

──なぜですか。

  「情報への共感」ではなく、「友人知人への共感」があるから聞く気になるということです。逆ではないんですね。たまたま僕の本を読んでくれた人が、ブログに「『サッカーなんか見に行くものか』とずっと思っていたけれど、コンサドーレ札幌の熱心なファンが友人にいて、『一回見に行こう』と引きずられて見に行ったら、自分もファンになってしまった」ということを書いていました。この人は決してサッカーに共感したのではありません。友人に共感したのです。あるいは、友人がサッカーを語る熱意に共感したのです。だから、サッカーについて聞く耳を持ったのです。砂一時代は、友人知人こそが最強メディアなのです。
  ここが特に情報の送り手側が勘違いしがちな点です。ソーシャルメディアで伝えたい情報がバズられると、「商品が共感を持たれた」と勘違いしてしまう。「いいね!」を押した友人知人に共感しているだけなのです。
  では、友人知人の勧めがなぜ人を動かすかというと、それが「オーガニックな言葉」だからです。オーガニックとは「オーガニック食品」からわかるように、「自然な」という意味です。つまり、誰からも頼まれない友人の「本音の言葉」「自然な言葉」です。直接リーチではなく、そういう友人知人を通して本音の情報が間接的に届くことを「オーガニックリーチ」と僕は呼んでいます。砂一時代に商品に興味関心がない人へ情報を届けるには、友人知人を通して情報を間接的に届けるオーガニックリーチが必要なのです(図3)。

ファンベースとマスベースの使い分け

──でも、8000万人近くの人たちは、砂一時代以前に生きているわけですよね。

  ネットを利用しない人たちに対しては、マスベースがいまだに有効です。だから、コミュニケーション戦略がちぐはぐになっているんです。面白いテレビCMを作ってネットでバズらせるというのもそうです。たまたまユーチューブにアップしたテレビCMの動画が話題になることはあるかもしれませんが、面白い動画だからといって商品を買うことにはつながらない。どうしたらいいかということで、僕の行き着いた答えが、表現もアプローチもファンベースとマスベースで分ければいいということです(図4)。

──具体的には、ファンベースはどういう戦略をとったらいいのでしょうか。

  ファンベースというのは、100人、1000人のファンから口コミで友人に伝わるようにするアプローチです。そこでは、ファンからオーガニックな言葉を引き出す施策が重要になります。
  今後もファンベースのプランニングは進化するでしょうが、今の時点でもいくつか方法は考えられます。例えば、社内です。社員に共感・尊敬されていない企業は、社外にもファンができにくい。社内の生活者と社外の生活者は繋がっているということです。それから、ファンの気持ちをきちんと汲んで「ファンをもてなし、特別扱いする」。「生活者との接点を見直す」というのは、当たり前ですが、すべての接点がファンを作るきっかけになるということです。例えば、最近「ペヤングソース焼きそば」の販売が再開され、売り切れ店が続出しましたが、熱狂的なファンとコミュニケーションできる千載一遇のチャンスだったと思います。あのとき、販売再開を待っていてくれた熱狂的ファンたちに宛てて、例えば社長の手紙を全製品に同封すればよかった。ファンにどうやってもっと愛してもらうか、という視点も大切なんですね。

『明日のプランニング 伝わらない時代の「伝わる」方法』佐藤尚之著(講談社現代新書)

──これまで企業はファンを無視してきた?

  ほとんどの場合、そうだと思います。新聞を例にすると、読売新聞をずっと取っていても洗剤はもらえませんでしたよね。新規客にしかプレゼントしてくれない。昔はそれでよかったし、新聞を取るほうもそんなものだと思っていました。でもいまやるべきことは長年、読売新聞を取ってくれているファンにきちんとアプローチすることだと思いますね。
  実は、新聞や雑誌などの活字メディアはファンメディアになるべきだと思っています。新聞は特に50代以上の世代にとってはマスメディアとして機能していますが、今後、高齢者のマスメディアと位置付けることには僕は疑問を持っています。
  雑誌は思いっきりマニアックになって、その雑誌でしかつかまらないファンがいるメディアになればネットよりはるかに強いメディアになります。新聞でも地方紙はそれぞれの地域に浸透しているわけですが、読者=ファンベースに軸足を移していけば今後も盤石だと思います。そして全国紙は、過渡期こそあれ、最終的には知識層のファンベースになるべきだと思います。そういうメディアは他にない。でもそこに早く足を移しておかないと彼らも離れていってしまうと思うんですね。

Naoyuki Sato

1961年東京生まれ。電通のコピーライター、CMプランナー、ウェブ・プランナーを経て、独立。現在コミュニケーション・ディレクター。カンヌ国際広告祭銅賞、ACC賞などを受賞。ベストセラー『明日の広告』『明日のコミュニケーション』(ともにアスキー新書)に続く「明日の~」シリーズ『明日のプランニング』(講談社現代新書)を5月に出版。