adv.yomiuriトップページへ

ojoトップ  > 特集  > ファンとコミュニケーションする:商品開発だけではないIDEA PARKの役割

特集ファンとコミュニケーションする

(Wed Aug 05 10:01:00 JST 2015/2015年8・9月号 特集)

商品開発だけではないIDEA PARKの役割
良品計画   くらしの良品研究所 課長   永澤芽ぶき 氏

永澤芽ぶき 氏

以前からネットを活用し、顧客の声を積極的に商品開発に取り込んできたのが「無印良品」だ。2014年には「くらしの良品研究所」の中に、顧客から寄せられた新商品や改良の意見をすべて公開する「IDEA PARK」を開設し、よりオープンなかたちで顧客とのコラボを進めている。「IDEA PARK」の考え方と、その場を活性化させるコアなファンの役割について聞いた。

──「IDEA PARK」ができた経緯からお聞かせください。

  お客様といっしょに商品開発を進めるコミュニティーサイト「くらしの良品研究所」ができたのは09年ですが、その中にある主要なコーナーの一つが「IDEA PARK」です。お客様から「こういうものを作ってほしい」「いま使っている商品をこういうふうに改良してほしい」というアイデアを投稿していただき、私たちと、あるいはお客様同士でやり取りする場です。

  インターネットを使ってお客様とやり取りをして商品を作ることは、00年の「ものづくりコミュニティー」というサイトから始まっています。そこで作られた商品が、「持ち運べるあかり」(01年)や「体にフィットするソファ」(02年)です。その後もネット上でモニターを募集したり、結果を公開したりということはやっていたのですが、それとは別に、無印良品のサイトに「いいたい放題!無印良品」というコーナーもあり、あちこちでバラバラに同じようにやっている状態でした。そこを一つにしましょうということで09年に立ち上げたのが、「くらしの良品研究所」です。

──その中に「IDEA PARK」は作られたということですか。

  当初、「IDEA PARK」は「ご意見箱」という名前でした。「ご意見箱」も基本的にはそれまでと同じで、お客様からの意見をメールで受け付ける窓口があり、いただいた意見は社長以下、社内の関連部署全員が必ず目を通して対応していましたが、ご意見をいただくだけで非公開でした。
  しかし、せっかく対応しているのなら、その結果もお客様に公開していきましょうということになり、「ご意見パーク」と名称も変えました。それが12年です。ただ、公開するご意見というのは、こちらでセレクトしていました。そのセレクトも止め、ご意見を原則全公開にしたのが14年1月からスタートした「IDEA PARK」です。

「できました」までの流れ

図 IDEA PARKリクエスト(投稿)の流れ

大きな流れとしては、IDEA PARK運営担当者の第1次検討を通過したリクエストは「新着リクエスト」に、くらしの良品研究所IDEA PARK担当の第2次検討を通過したものは「最終検討します」に、商品開発担当や関係部署で開発が決定した場合は「開発はじめます」になる。その後、実現したものは「できました」に変わる。

──「IDEA PARK」には、どれくらいの投稿が寄せられるのでしょうか。

  「IDEA PARK」ではお客様からのご意見を「リクエスト」と呼んでいますが、これまで投稿されたリクエストの数は7月17日現在で累計8840件、週にすると120件くらいです。そのリクエストにどう対応しているか。具体的には三つの段階に分かれます(図)。
  [第1次検討]お客様がスマホやパソコンを使って投稿されたリクエスト、これが週120件くらいあるわけですが、「IDEA PARK運営担当者」がすべて目を通し、第1次検討します。「以前に検討したことはないか、他の人がすでに投稿して検討中の内容か(検討ずみ/検討中)」「販売中ではないか、すでに開発中で発売日が決まっているか(販売中/開発中)」などをチェック・分類し、すべてのリクエストに対し無印良品からの回答をします。新しいアイデアとして検討したほうがいい投稿だけを「新着リクエスト」というステータスにして第2次検討に送ります。
  [第2次検討]「新着リクエスト」は週50件前後です。それを「くらしの良品研究所IDEA PARK担当」が、今度は実際の商品開発担当者に検討してもらうべきリクエストかどうかを検討します。ここでは「無印良品の品揃(ぞろ)えの考え方に沿っているか」が重要なチェックポイントになります。通過したリクエストは、「最終検討します」にステータスが変わります。
  [最終検討] 「最終検討」に送られるリクエストは週10件から15件です。まず、婦人服や紳士服など直接の担当者が開発すべき商品かどうかを1週間で判断します。次に、週明けの月曜日、食品、衣料品、生活用品の3部門の責任者が集まり、最終的に判断します。直接の担当者が「開発しない」と判断したリクエストでも、このミーティングで再度検討するよう差し戻される場合もあります。開発が決まれば、そのリクエストは「開発はじめます」にステータスが変わります。

──最初にリクエストが来てから「開発はじめます」という結論が出るまでの期間は、どのぐらいでしょうか。

  早くて2週間くらいですね。その後商品化され、販売されると、「できました」にステータスが変わるわけです。

より良い商品づくりの後押し

──お客様のリクエストで商品化されるものは、年間、何件くらいあるのでしょうか。

  昨年の「できました」は64件でした。この中にはお客様からのリクエストから商品化されたものだけでなく、社内で開発を進めていたものも含まれています。例えば、社内で開発を進めていた商品が、お客様からいただいたリクエストとほぼ同じような場合もあります。ですから、厳密なカウントはできないのですが、お客様からのリクエストで商品化されるまったく新規の商品は、おそらく年10件以下だと思います。
  ただ、これは「IDEA PARK」をどう位置付けるかという話になるのですが、お客様とコラボした商品が「IDEA PARK」から次々と生まれると考えるのは、現実的にはないと思っています。お客様の声は「IDEA PARK」だけでなく、店舗やお客様室にも日々入ってきます。そういうお客様の声も社内システムで担当者に行くようになっています。それを全部含めて担当者は商品開発をしている。「IDEA PARK」単独で商品ができているわけではないからです。
  ただし「IDEA PARK」は、既存商品の使い勝手の改良や、販売を止めてしまった商品を再販してほしいという要望を社内につなげることには寄与できていると思っています。  
  リクエストは原則公開だと言いましたが、そこに「良いね」とコメントが付けられるようになっています。改良のアイデアや再販してほしいという要望も公開されるので、それに対し付けた「良いね」やコメントが数でわかります。「この意見に対して50人が賛同しています」というのは、開発担当者に対しても説得力を持つ。「IDEA PARK」は、商品開発の仕組みというより、「より良い商品づくりの後押し」になると考えています。

リクエスト投稿やコメントには、無印良品の店舗でも使える「MUJI passport」のMUJIマイルが付与される。リクエストに「良いね」する10マイル、同「良いね」される100マイル。ちなみにリクエストのステータスが「できました」に変更は10万マイル。

──「IDEA PARK」では、リクエストしたり、「良いね」したり、コメントを書くとマイルが貯まるようになっていますね。

  「IDEA PARK」にリクエストや「良いね」をするには会員登録が必要です。MUJIマイルを付ければ、お客様に「IDEA PARK」に来ていただくインセンティブになるだろうと考えたからです。コメントした人、された人、「良いね」した人、された人ももらえますし、「最終検討します」「開発はじめます」「できました」とステータスが上がれば、より多くのMUJIマイルがもらえます。
  実は、「IDEA PARK」に投稿してくださる会員の方と直接お会いする交流会をこれまで2回行っています。そのときに「IDEA PARK」のどこに価値を感じているかうかがったのですが、「マイルが貯まるのが楽しい」という方もいました。もちろんリクエストすること自体に価値を見出している方もいますが、一定の効果はあると思っています。

「IDEA PARK」のコアファン=無印良品のコアファン

──「IDEA PARK」にリクエストする人というのは、どういう人たちなのでしょうか。

  「IDEA PARK」の中でも、リクエストする人は無印良品のコアファンと言えます。性別や年齢は、無印良品のお客様とイコールで8割以上が女性で、主婦の方、お仕事をされている方(職種も多種多様)と偏りなくご訪問いただいています。この6月の交流会には「IDEA PARK」で募集してリクエストを積極的にされている9人とお会いしたのですが、みなさん仕事をされている方でした。
  交流会では、率直なお話もさせていただきました。これだけリクエストが来て、見送りがほとんどというのが実態ですが、どう思うか。やはり「きちんと見てくれていないのではないか」という気持ちが交流会の前は強かったという人がほとんどです。しかし、いただいたリクエストをどのように検討しているかお話しし、商品の開発担当者と話をしてもらうことで、「思った以上にちゃんとやっている」という感想もいただけました。
  ただ、「IDEA PARK」の運営で課題だと思っているのは、「お客様の要望に個別に応えること」の是非です。お客様も「私の要望=ユーザーの要望だし、それに真摯に答えることがものづくりではないか」と言う人もいます。個別に対応する部署は「お客様室」というところが別にあるわけですが、「IDEA PARK」でも、お客様の個別のリクエストに対応しているという側面もあるのが現状です。

──無印良品のものづくりとは、別のところに行ってしまう気がしますね。

  「IDEA PARK」ではリクエストだけでなく、色々なコンテンツを通してお客様とコミュニケーションしていきたいと考えています。例えばアンケートからお客様の商品を選ぶ視点や使用状況を確認したり、プロジェクトではテーマを特定して、商品について考えたり。それらすべてがより良い商品づくりにつながると考えるからです。
  興味深いのは、「IDEA PARK」のコアなファンに交流会に来ていただいて、面と向かって話した後のアクションです。以前は「IDEA PARK」にリクエストを投稿するだけだった人が、ほかの会員の方に積極的にコメントしてくださるようになる。例えば、商品の改良をリクエストしてきた人に、「私はこういう使い方をしています」とアドバイスし、お客様同士で課題を解決するような事例もありました。そこに「IDEA PARK」を活性化させるヒントがあるような気がします。