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特集イラストをめぐる冒険

(Mon Oct 05 10:00:00 JST 2015/2015年10・11月号 特集)

イラストレーターを守りイラストを生かすプラットフォーム
  日本イラストレーター協会 会長   蟹江隆広 氏

蟹江隆広 氏

4万人ともいわれる日本のイラストレーターだが、その大半が組織には所属せずフリーで活動している。ゆるキャラに象徴されるキャラクタービジネスや個人によるものづくりの裾野が広がっていることで、イラスト需要は高まりつつあるといえる。日本のイラストレーターを取り巻く環境やイラストをめぐる現状について、日本イラストレーター協会の蟹江氏に話を聞いた。

イラストレーターの権利保護と地位向上が目的

──イラストレーター協会について教えてください。

  イラストレーターの権利保護、地位向上を目的として1994年4月に設立しました。主な業務としては、イラストレーターへの仕事の斡旋やコーディネート、公募展や交流会の開催はじめ、イラストに関する相談、イラストレーターの情報交換の場も設けています。特に、若手イラストレーターに対しては、基本的なマナーやデザインの基礎から始め、イラストレーターとしての基本的な準備から仕事の仕方、受注時の発注者サイドとの打ち合わせや交渉、イラストの権利関係の指導に至るまでさまざまな側面でサポートしています。現在、ほぼ新人からベテランの方まで、約500人のイラストレーターが所属しています。

日本イラストレーター協会「会員リスト」
http://jpn-illust.com/list/index.html

──まるでイラストレーターの学校のような面倒見の良さですね。

  というのも、イラストレーターというのはほとんどの人がフリーで仕事をしています。高校や大学、専門学校を卒業してもイラストレーターとしての就職先は実に限られていて、すぐにそのままフリーで活動せざるを得ない人がほとんどです。そういった若者に社会経験が不足しているのは当たり前のことです。とはいえ、社会人として訓練されていない中で、自分の作品の売り込みや営業などをすべて自分でこなさなければなりません。社会に出て独力でそのハードルを乗り越え、イラストレーターとして身を立てていくことは、並大抵のことではありません。私たちはそのためのサポートと、イラストレーターの地位向上と権利確保のために活動しています。

──イラストレーターとして活動する中でその権利が十分ではないと感じることはありますか?

  はい。特に昔は社会的な立場に由来した不利を感じることが多かったです。今でこそクリエイター全般の権利に対する社会の認識も向上してきたと思いますが、30年近く前まではその点でのトラブルやひどいときには訴訟なども少なくありませんでした。例えば、デザイナーの指示通りイラストを仕上げたのに、クライアントに持って行ったら先方の上司に却下される。そういうとき、立場の弱いイラストレーターのせいにされる。その仕事を失うだけではなく、裁判なんかになったときにはイラストレーター個人ではどうしたらいいのかわからない。協会では、こうした場合の相談にも乗っています。

──一般企業でいう組合のような機能も果たしているということですね。若手や新人にとっては頼もしい存在です。

  はい。そうした“守り”のサポート業務をする一方、仕事の斡旋やイラストコーディネートは重要な“攻め”の業務です。やはり会員からは「もっと仕事が欲しい」とか「自分の仕事の幅を広げたい」という要望が多いので、ちょうどデザイン系のエージェントがやるような、イラスト仕事の斡旋やコーディネーター業務が活動のメーンになってきています。

個人ニーズとイラストコーディネート

──コーディネートは具体的にどのような作業でしょうか。

  イラストレーターの選択はとても難しいものです。タッチだけ見ても、本当にそのイラストレーターが顧客の求めているものに適しているかどうかは分かりません。それはイラストレーターの表面だけしか見ていないからです。同じタッチでも、人物が得意、動物が得意なイラストレーターや、それ以外は苦手という人もいます。また「仕事が速い人と遅い人」、「のみ込みが早い人と遅い人」、「想像で描くのが得意な人と資料に忠実に描くのが得意な人」などさまざまです。私どもは約500人いる会員の個々の仕事や経験などを細かく把握していますので、イラストレーター選びでミスをすることが非常に少なくなります。イラストのコーディネートを頼む人は、イラストや印刷の知識があまりない方であったり、欲しいイラストのイメージはあるが適したイラストレーターを見つけられていないという方たちです。私たちは、そうした顧客の細かな希望やオーダーを聞き取り、なるべくイメージに近いジャンルやテイストを提案したり、そのままイラストレーターに繋(つな)いだりしています。

──イラストの雰囲気を見ればわかるので、コーディネートは不要という顧客にはどう対応されていますか?

協会サイトの個人ページ ⒸHideki Youda

  本サイトではコーディネーターを通さなくても、サイトのギャラリーのページから気に入ったイラストレーターを見つけて、個人サイトから直接発注できるというシステムになっています。サイトを訪れる方のほぼ8割は直接個人サイトを覗(のぞ)いて発注されているようです。

──最近ではどのようなニーズが多いですか?

  昔はあまりありませんでしたが、最近では個人の方からの発注も増えてきました。似顔絵の需要は今も昔も一定量あります。変わったところでは「お墓の墓石にコチョウランのイラストを入れたい」ですとか「個人で自費出版する際の挿絵にイラストを使いたい」などその用途はさまざまです。また、デザイン会社からの発注も増えてきています。デザイン会社というのは、ひいきにしているイラストレーターやクリエイターがいることが多いですが、案件によってはその仕事に合ったイラストレーターを見つけたい。新しいジャンルやテイストのイラストを見てみたいというニーズが常にあるようです。

わかりづらいことをわかりやすくするイラストの魅力

──ズバリ、イラストの魅力やそれを用いることでの利点について教えてください。

  まず、やはりイラストだと「一目見てぱっとわかること」が重要です。アートではありませんから、伝えたいことを一目でわかりやすく伝えるのがイラストの役割の一つであると言えます。また、目に入る情報がこれだけ多いなかにあっては「アイキャッチとして人目を惹(ひ)く」というのも重要な観点です。どれだけ雑然としたテキスト情報のなかにあってもイラストはどうしても目についてしまうものです。また、イラストにはそれを見た人の「印象を和らげる効果もある」と思います。写真であれば内容によるところがありますが、イラストであればイラストであることによってそもそもの印象を和らげてくれることがあります。堅い内容であったり、難しい内容を説明しようとする際には、絵やイラストがあったほうが伝えたいことが頭に入りやすいと思います。文章ほどにものを言うイラストというのがあります。言葉では説明できないようなこともイラストで伝えることが出来る。こういった仕事はイラストレーターの仕事としても理想であると思っています。

www.mori-kenichi.com ⒸMori Kenich

──最近は特に、デザインやクリエイターの著作権など権利関係について関心が集まっています。

  確かに、最近特に権利意識は高まっていると実感しています。基本的に著作権、版権はイラストレーターに帰属しますから、2次使用や別の媒体に使用する場合は新たな料金が発生します。若手のイラストレーターには上記のような自らの権利が守られる一方で、過去の作品の権利や価値についても教えていく必要があります。イラストにおいてよく言われるのが、「タッチをまねても問題にはならない。タッチと構図をまねると問題になることが多い」ということです。

──イラストの価格というのはどのようにして決まっているのですか?

  イラストのタッチ、イラストレーターの知名度、クライアントの規模、使用媒体、使用期間、発行部数、使用サイズなどを総合的に判断して決めていきます。当然のことながら個々の作品の金額については制作者自身によって自由に設定されています。簡単に仕上げることができるイラストの類がある一方で、何か月という制作期間をかけて、かなり多くの手が入ったものもありますので。同じ規模感のものでも、制作者によってピンキリです。当協会にも、チラシの挿絵しか描いたことのない新人から、雑誌の表紙絵で一枚数十万円というような方もいます。

最近のイラストの傾向とこれからについて

kondohiro.tumblr.com ⒸHiro Kondo

──最近のイラストの傾向みたいなものはありますか?

  これは傾向というものではもはやありませんが、ゆるキャラしかり、脱力系のイラストがますます受けているというか、一つのジャンルとして定着してきたという印象があります。見るとなんとなく安心する、リラックスするとかそういうことだと思うのですが。また、最近よく見るのは、スマホやポータブルゲームに出てくるキャラクターを描くというものです。キャラクターの個性や魅力でゲームの売れ行きは変わってきますから、そのキャラクターデザイン並びにイラスト描き起こし競争は熾烈(しれつ)なようです。聞くところによると、カード用のキャラクターイラストが一枚十数万円というものもあるようです。

──今後の抱負をお聞かせください。

  イラストレーターに対する教育により一層注力していきたいと思っています。また、海外のイラストレーターとの交流をより増やしていきたいです。カナダや台湾、香港、韓国など現地のイラストレーターも所属していますが、今後はより多くの案件で、海外の仕事を日本のイラストレーターが受注し、日本の仕事を海外の方が受注するような環境を作っていけたらいいと考えています。

Takahiro Kanie 

岐阜県生まれ。大学卒業後、渡米してアートを学ぶ。大日本印刷のエアーブラシ部門「レベル工房」を退社後、フリーに。イラスト制作会社(有)クレアを設立。1999年に日本イラストレーター協会を設立し、理事に就任。日刊工業新聞広告賞金賞。第5回ZEN展イラスト部門で優秀賞。 www.maroon.dti.ne.jp/kanie/