adv.yomiuriトップページへ

ojoトップ  > 特集  > イラストをめぐる冒険:イラストレーションは広告の中でどう機能しているか

特集イラストをめぐる冒険

(Mon Oct 05 10:00:00 JST 2015/2015年10・11月号 特集)

イラストレーションは広告の中でどう機能しているか
  電通 第1CRプランニング局 クリエーティブ・ディレクター   畑野憲一 氏

畑野憲一 氏

アフラックの広告を担当する電通の畑野憲一氏は、クリエーティブ・ディレクターであると同時に、「まねきねこダック」や「はじめてダック」を自ら描くイラストレーターも兼ねている。絵本の制作や絵本作りを子どもたちに教える多彩な活動を行う畑野氏に、広告に果たすイラストレーションの役割を聞いた。

──アフラックの広告には、昨年から「はじめてダック」という新しいキャラクターが登場していますね。

  「はじめてダック」は、2014年の秋から新商品「新 生きるためのがん保険Days」の発売に伴い登場のキャラクターです。テレビCMは、嵐の櫻井翔さんにご出演いただいて、櫻井さんががんを克服して活躍されている著名人に話を聞くというフレームで作っていますが、そのときに一緒にブランドを語っていくフレームを同時並行で作りました。それが、帽子を被って青いネクタイをしている「はじめてダック」というキャラクターです。

──「はじめてダック」というネーミングは、どこから来ているのですか。

  1974年に、アフラックががん保険を日本で初めて発売したところから来ています。昨年9月にオンエアした「はじめてダック篇」では、実写版のはじめてダックが、40年前のとあるビルの一室でがん保険に関する資料を一生懸命調べたり、書類をまとめたりしながら奮闘している様子と、現代のオフィスで、すっかり様変わりした外の景色を眺めながら街の人々に思いを馳せる「はじめてダック」の姿を、櫻井さんのナレーションで描きました。また、そのグッズをイラストで展開しています。

昨年秋から「新 生きるためのがん保険Days」のキャンペーンに登場した実写版(左)とイラスト版(右)の「はじめてダック」。イラスト版はクリエーティブ・ディレクターの畑野さんが描いている

──テレビCMにはイラストは使っていないということですか。

  伝える内容で使い分けています。昨年のクリスマス時期には、イラスト版のアニメーションのテレビCMをオンエアしています。「アフラック ペアレンツハウス」という社会貢献活動を伝えるテレビCMです。「アフラック ペアレンツハウス」というのは、小児がんなどの難病のために、大都市圏の専門病院で闘病する子どもたちとその家族の経済的・精神的負担を軽減することを目的とした総合支援センターで、家族は1泊1000円で子どもが治療中は期間の制限なく滞在できる施設です。東京に2か所、大阪に1か所あります。この施設の存在をより多くの人に伝え、アフラックのがんに対する取り組みや想いを知ってもらうことを目的としたテレビCMでした。
  実写でこういう施設があることを紹介することもできますが、実際の利用者を出すわけにいきません。アニメーション、イラストレーションというのは、訴求したいイメージだけに特化した独自の表現ができる。そこが良さだと思います。

イラストレーションとは何か

──畑野さんは絵本も描いていらっしゃいますが、イラストレーションと絵本の絵とは違うのでしょうか。

  私の場合は、広告を作る中でイラストを描くことが多いので、広告の中のイラストの役割という視点で考えてしまうのですが、広告には「商品を売る」「ブランドイメージを伝える」など必ず目的があります。イラストレーションは、その目的を達成するための表現だと思います。目的が明解で、それを達成するための意図や思いがちゃんと表現されているものがイラストレーション。一方、絵本の絵にも当然目的はあるのですが、その目的というのはあくまで個人の思いを伝えるものだと思います。
  だから、「アフラック ペアレンツハウス」のテレビCMについて言えば、アフラックのがんに対する想いを知ってもらうためには、親しみを感じられるアニメーションを使った表現のほうがより有効だと考えました。

「アフラック ペアレンツハウス」のテレビCM「はじめてダック ホワイトクリスマス」篇(2014年12月)

──「はじめてダック」はアフラックのがん保険のキャラクターですね。それに実写版とイラスト版がある?

  キャラクターというのはブランドの目印になるような役割を担っているもの、イラストレーションというのはキャンペーンの中で、ある目的を達するために描くものだと思います。ですから、レイヤーが違う。夏のキャンペーンにも、冬のキャンペーンにも、キャラクターの「はじめてダック」は登場してくる。しかし、夏のキャンペーンの目的を達成するには実写版かもしれないし、冬の目的を達成するにはイラスト版がいいかもしれない。そういう違いだと思いますね。

──ブランド資産という言い方がありますが、キャラクターもその一部だと。

  キャラクターによってブランドを覚えてもらえるし、そういう意味合いでイラストレーションを使う企業は多いですね。JR東日本のスイカのペンギンも、ENEOSのエネゴリ君も、使い続けることで「スイカのペンギンだ」「ENEOSのエネゴリ君だ」とすぐわかってもらえる。キャラクターは必ずしもイラストレーションである必要はありません。中には、着ぐるみや人形ですらなく、完全な実写版のキャラクターもありますね。

SNSでも重要なイラスト

──アフラックの場合は、実写とイラスト版が使い分けられていますね。

  最近はSNSの普及で、イラスト版のキャラクターの役割は、さらに広がっています。アフラックも「LINEスタンプ」の配信を何度か行っています。写真ではなかなか出せない可愛らしさや親しみを、小さいスペースの中で表現できるのもイラストレーションの強みだと思いますね。

アフラックのLINEスタンプ

──LINEスタンプには、「まねきねこダック」もありますね。

  「まねきねこダック」も「はじめてダック」も「ブラックスワン」もあります。「はじめてダック」はがん保険、「ブラックスワン」は医療保険に登場するキャラクターですが、以前医療保険のキャラクターとして登場した「まねきねこダック」は今も人気で、広くアフラック全体の広告の中で登場するブランドキャラクター的な位置づけになっています。それから、アフラック自体の元々のキャラクターであるアフラックダックを加えた四つのキャラクターが、アフラックのブランドキャラクターです。

──メディアがいろいろ出てきたことによって、イラストの使用範囲など運用面でも難しさが出てきたと思うのですが。

  イラストレーターによってはフレキシブルに使用を容認する方もいますし、使用範囲や目的を明確に主張する方もいる。個別に対応しているのが実際ですね。キャラクターの使い勝手があまり悪くなってはいけませんが、そのキャラクターの世界観を守っていくことも大事なことです。
  アフラックの場合は、クライアントとクリエーティブチーム全体で議論しながらキャラクターの使い方を決めて、私が最終的なアウトプットの表現を任されているので、ワンストップで、スピード感をもった仕事ができると思います。

手描きの絵本に挑戦する意味

「キャンディをひとつ」(作・マユミーヌ、絵・畑野憲一、地球兄弟プロジェクト刊)、絵は畑野さんの色鉛筆による手描き

──ちなみに畑野さんはどのように絵を描いているのですか。

  Photoshopというアプリケーションを使って描いています。リキテックスというアクリル水彩絵の具で描いたテクスチャーをスキャナーで多数取り込んであり、それをパソコンで切り絵をしているような感覚で描いていくんです。だから、パソコンの前に長時間座っていることも多い。それで、時にはちょっと手法を変えてみようというのもあって、自作の絵本は手描きの色鉛筆にしています。色鉛筆だと、どこでも描ける気軽さがあるんですね。2013年にマユミーヌさんと描いた「キャンディをひとつ」という絵本がそれなのですが。

──マユミーヌさんというのは、「まねきねこダックの歌」を歌われている方ですね。

  何度かテレビCMでご一緒していますが、マユミーヌさんは幼稚園などいろいろなところで子どもたちに絵本の読み聞かせライブを行っているんですね。それでご自身の絵本も作りたいというお話があったので、絵を描くことになったのです。

──最近は絵本の描き方を子どもたちに教える活動もされていますね。

  「キャンディをひとつ」を描いたこともあり、別の仕事で演出をされている方の紹介で、東京都江戸川区の「子ども未来館」というところで子どもたちに絵本を教えることになったのです。4月から月1回のペースで開催し、9月の最終回で子どもたちの描いた絵を製本し、絵本が完成しました。

東京都江戸川区の「子ども未来館」で今年4月から9月にかけて月1回開催された「いただきます絵本づくりゼミ」。畑野さんが子どもたちの絵本づくりの先生に。

──自分で描いて製本までしたということですか。

  最初に、「いただきます」というテーマの三つのストーリーをこちらで用意し、子どもたちには、その中から好きなストーリーを選んでもらって色鉛筆で絵を描いてもらいました。そして、それぞれの子どもたちが描いた絵を糸で縫って、台紙に貼り、一冊の本にしたのです。

──子どもたちに絵本作りを教えてみて、どうでしたか。

  逆に刺激ももらいましたね。子どもたちの発想ってやはり自由なんですよ。そういうふうにときには違う視点から作品を見ることは広告にとっても大事です。自分が思い入れを込め過ぎた作品より、意外と力を抜いてふわっと描いたときのほうが評価が高い場合もあったりします。クリエーティブ・ディレクターであり、イラストレーターであるというのは、自分の作品を一歩引いて全体を俯瞰(ふかん)してみているもう一人の自分が常にいるということなんです。

Kenichi Hatano 

1964年横浜生まれ。86年東京藝術大学卒業。88年同大学院美術研究科視覚デザイン専攻修了。同年電通入社。デザイナー、 アートディレクターを経てクリエーティブ・ディレクター。主な賞にニューヨークADC金賞、カンヌ国際広告フェスティバル銅賞など。アフラックを担当し、「まねきねこダック」「はじめてダック」などのイラストレーターとしても活躍。2013年に出版された絵本「キャンディをひとつ」(地球兄弟プロジェクト)で絵を担当。