adv.yomiuriトップページへ

ojoトップ  > 特集  > 広告を「編集」する。:媒体の世界観が試されるネイティブアド

特集広告を「編集」する。

(Mon Dec 07 10:03:00 JST 2015/2015年12月・2016年1月号 特集)

媒体の世界観が試されるネイティブアド
博報堂ケトル   代表取締役社長   嶋 浩一郎 氏

嶋 浩一郎 氏

ネイティブアドがネットの世界で注目されるようになった理由は何だろうか。今までネット上で媒体社がマネタイズに使ってきたPVによる換金に、様々なひずみが出てきた(PV至上主義によって起こされる読者の不利益やステマ問題)といった背景があるようだ。ネイティブアド、企画広告、編集タイアップとは、広告主にとって、または媒体社にとって本来どういうものなのか。博報堂ケトルの嶋浩一郎氏にその本質を聞いた。

──嶋さんは、新聞を毎朝5紙読まれているそうですね。

  いわゆる中央5紙とニューヨーク・タイムズを読むようにしています。その中で、日経新聞が一番めくりやすくて、読売新聞が一番めくりにくいことに最近気づきました。

──どういうことですか。

  0歳児のうちの子供にめくらせたことがあるのですが、読売新聞をめくるのが一番大変そうだった。読売新聞はカラーページが多いからというのが僕の結論です。

──そういうところにこだわるのは、紙のメディアが好きだからですか。

  確かに紙メディアに対する愛着はあります。ただ、新聞をキンドルで配信してくれるなら、それで読んでもいいと思っています。新聞社や出版社の人たちは紙にこだわりますが、もっとアピールするところがあるだろうと思うんですね。特に新聞や雑誌は「一次取材していること」が最大の価値です。その大切さを誰もアピールしないから、コピペ編集的なネットニュースが横行してしまうわけです。

  日本に一次取材をするメディアが通信社も含めて複数存在するからこそ、日本の企業の競争力があるわけです。複数の情報があるというのは当たり前の状況ではなくて、幸せなことなんです。紙の媒体を読んでいる人は、それをわかっていると思うけれど、専らネットニュースを読んでいる人は、一次取材の価値をあまり理解していない。新聞という紙に印刷した伝達手段は減少していくでしょうが、一次取材をしている情報の価値は今後も変わらない。新聞社は、きちんと一次取材している組織であるということをもっとアピールしたほうがいいと思います。

PV偏重や「ステマ」による弊害

──その新聞が一次情報を提供しているネットニュースやキュレーションメディアでネイティブアドが注目されています。この背景をどう見ていますか。

  そもそも紙の新聞や雑誌のマネタイズモデルというのは、媒体の販売収益と発行部数などに基づき、新聞1段いくら、雑誌1ページいくらという価格設定がされていて、それで新聞社や出版社が一次取材をするコストを捻出してきたわけです。それがデジタル時代になり、ヤフーニュースを始めとするネットニュースが普及してどうなったかというと、PVを課金するようになったのです。要は、バナー広告が何回表示されたかを換金の単位にした。

  インターネットの世界は“民主主義”だから、例えば、読売新聞がワシントンDCに特派員を送ってFRB議長にインタビューした記事だろうが、アイドルのブログをソースにした「ブログ発」のニュースだろうが、広告主にしてみれば同じ1PVです。クオリティーの高い記事を見た1人1回も、アイドルのブログ発で書かれた記事の1人1回も、等価で換金されてきた。媒体の持っている世界観やクオリティーは、無視されてきたのです。要は、PVが上がらなければ儲からない。逆に言うと、PVを上げれば儲かるビジネスモデルです。

  それで、どういうことが起こったかというと、一つの記事を分割したり、写真を大きくしたりして、PVを稼ぐという方法が横行したのです。一つの記事を5ページに分割すれば、5倍収入が増える。そういう読者にとって不利益なことをメディアがやってきた。かつ、そういう馬鹿げた方法でPVを稼ぐことが加速すると、タイトルを扇情的にした「ノーバン始球式(※)」のような“釣りタイトル”でPVを稼ぐという弊害も起きてきました。さらにPVだけで稼げないところが、「ステマ」と呼ばれているノンクレジットの広告枠も販売するようになった。その解決策として注目されてきたのが、ネイティブアドだと思っています。

※野球の始球式で、アイドルや有名人がノーバウンドでキャッチャーミットに投げること。「ノーパン」と空目した人々が見出しに釣られることも多く、定期的にこの語句が用いられる。

──どういうことですか。

  ネイティブアドはオンライン媒体において、ユーザー体験の中での企業情報を提供する広告。記事からオウンドメディアへの誘導手法なども含んだ概念ですが、媒体社が編集し「広告」と表示された記事コンテンツが代表事例です。JIAA(インターネット広告推進協議会)が今年3月に定義を公表していますね。ネイティブアドの料金はPVとは違って、ネイティブアド1件につきいくら、要は媒体のクオリティーによって値段が決められるということです。現時点においては、ネイティブアドは出版社がネットでマネタイズする手法としてはフェアで納得いく形ではあると思うんです。

ネイティブアドはパーティーのスピーチ

──PVの弊害はわかりましたが、ネイティブアドがなぜ解決策になるのか、説明してもらえますか。

  ネイティブアドになると、「この媒体の記事を読んでいる人はこういう属性があるから、この媒体に広告を出す」という世界に戻っていくということです。もともと新聞社や出版社が紙の媒体で広告スペースを売っていたのと近い状況に戻っていく。ということは、自分の商品をどの媒体の世界観の中で表現するかが、クライアントにとって重要になってくるわけです。
  媒体は媒体ごとに人格が存在します。雑誌はすごく顕著で、例えば「ESSE」も「Mart」も同じ30代主婦が読んでいる雑誌ですが、「ESSE」にはコストコの記事が載っていたり、冷凍食品の解凍技術の記事が載っている。つまり、「ESSE」は家事をより効率化するナレッジが載っている雑誌です。一方で、「Mart」にはル・クルーゼのカラーリングの話やどのミネラルウォーターのボトルがどうかわいいかの記事が載っている。「Mart」は家事をより楽しくする文脈というか、世界観があるわけです。もし、宣伝したい商品が家事を効率化するのだったら間違いなく「ESSE」に出稿すべきだし、家事をより楽しくする商品だったら「Mart」に出稿すべきだということです。
  つまり、ネイティブアドというのは、媒体の持つ世界観の中で自分の商品をアピールできる広告で、媒体の持っている読者を惹きつける力や、文化をつくる力を拝借するということです。そのほうが商品に対するエンゲージメント力は強くなるわけです。

──ネイティブアドは、読者から見ると「なんだ広告か」という意識があると思うのですが。

  それは広告会社やクライアントのメディアリテラシーによります。ネイティブアドはメディアの編集力と読者を惹きつける技術を借りて商品をアピールする手法とも言えるわけです。そこが、広告スペースを買って自分たちの言いたいことを言う「純広告」との違いです。そこを理解していないクライアントは、ネイティブアドにあれも言いたい、これも言いたいと、情報を詰め込もうとする。わかっているクライアントは媒体の文脈を使うことに長けている。だから、自然な形で読者に伝わるわけです。
  パーティーにたとえると、わかりやすいと思うのです。雑誌の発行日というのは、その雑誌が大好きな人たちが集まるパーティーが開かれる日です。純広告はそこでチラシを配ること、ネイティブアドはそのパーティーでスピーチする権利をもらうことと言えます。そのパーティーには、その雑誌が大好きな人が集まっているわけだから、スピーチの仕方にも作法がある。媒体の世界観がわかっている人は、いいネイティブアドや、紙媒体における編集タイアップが作れるということです。

新聞の世界観って何ですか

──同様に編集的手法でアプローチする、新聞の「企画広告」についてはどうですか。

  それも同じだと思います。ただ、新聞の置かれている状況は、以前とはまるで変わっています。ところが、新聞社の広告局の人と話をすると、いまだに「うちは○○新聞と違って」と言う人が多い。今はメディアだけでなく、マーケティング手法も多様化しています。クライアントからしたらどんな手法を選んで戦ってもいい状況になっている。「クックパッド」にお金を払っても、PRの会社にお金を払ってパブリシティーに力を入れても、テレビCMを作ってもいい。その一つが新聞広告であり、新聞の企画広告だということです。
  だから例えば、主婦を攻略するときも、新聞の夕刊に出稿するのか、「クックパッド」に出稿するのか、「ESSE」に出稿するのかという話になってくる。新聞社の人は、そういう異種格闘技に慣れていないと思います。
  ネットニュースの場合はもっと苛烈で、ヤフーニュースの主な配信元でも200社ぐらいあり、それぞれニュースメディアを持っています。ネットニュースのネイティブアドでは、その200社が競合になるわけです。

──だからこそメディアの世界観が大事ということなのでしょうが、新聞はそこから一番遠いメディアだと思うのですが。

  例えば、読売新聞はネット上では発言小町というファンの多いコンテンツを持っている。そういう媒体の世界観も当然あるわけです。ジャイアンツファンにとっては、読売新聞はスポーツに強いというイメージがある。そうやって、世界観というのは、媒体自身がつくっていくものなんです。

YOMIURI ONLINEの人気掲示板「発言小町

  それから、外から見ていて思うのは、新聞社の人たちは自分たちの強みをわかっていないのではないかということです。出版社のほうが狭いターゲット内での差別化の歴史があるので、雑誌ごとにきっちり世界観がある。新聞はジェネラルな媒体であるというところはあるのですが、他のメディアに勝る取材力、調査力、バックデータの豊富さ、データや事象を視覚的に表現するインフォメーショングラフィックスをつくるスキルなど、強みは山ほどある。そこを使ってネイティブアド、企画広告を作っていけばいいだけだと思うんですね。

──企画広告や編集タイアップを媒体に依頼するときは、どういうところに気をつければいいのでしょうか。

  例えば自分の場合、旅行の編集タイアップをある雑誌に頼むとしたら、編集スタッフまで指名しますね。なぜなら、その人が「旅」というテーマで読者を惹きつけるスキルを持っているのを知っているから。理想論かもしれないですが、新聞の企画広告なら、新聞社の取材力で今度の新商品を徹底して取材してもらうとか、トップマネジメントを新聞記事のクオリティーでインタビューするとしたら、他のメディアにない強みになるわけです。記事データベースなどバックデータの豊富さも強みです。ある商品の歴史を振り返るすばらしい記事ができるはずなんです。そういう強みを使って、「貴社の商品は、うちの媒体の世界観の中で1番輝きます」というプレゼンができるかどうかですよね。

本当の意味の媒体価値の競争へ

──ネイティブアドや紙媒体の企画広告・編集タイアップは、どうすれば信頼を得られるでしょうか。

  ネイティブアドはステマ問題を解決する側面も持っていると思います。ステマ問題には、PV換金以外のマネタイズができていなかったメディアの一部が、ノンクレジットの広告枠を販売してきたという経緯があります。これからはしっかり「広告」とクレジットを入れたネイティブアドを販売していくことで、マネタイズと編集の独立を実現することができると思っています。

──そうすると、広告の売り方、売る側の意識も変わってきますよね。

  メディアの方々はもちろんのこと、広告会社の提案力が問われる時代になってくると思います。なぜなら、PV換金では媒体の世界観をそれほど意識せずに販売することが可能でした。つまり、料金表さえあれば誰でも売ることができた。しかし、ネイティブアドは、自分の担当している商品にとって、 最も適した世界観を持つ媒体を選択し、提案しなければならないからです。PV数などその媒体の持つパワーももちろん重要ですが、媒体の文脈を理解することが必要になると思っています。

Koichiro Shima

1968年東京都生まれ。上智大学法学部卒業後、93年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局で企業の広報・情報戦略に携わる。2001年朝日新聞社に出向。スターバックスなどで販売された若者向け新聞「SEVEN」の編集ディレクターを務め、02〜04年には博報堂刊『広告』の編集長を務める。04年に「本屋大賞」を立ち上げ、現在NPO本屋大賞実行委員会理事。06年に博報堂ケトルを設立。クリエイティブディレクター。