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特集広告を「編集」する。

(Mon Dec 07 10:01:00 JST 2015/2015年12月・2016年1月号 特集)

顔の見える編集が求められるハイエンドマガジンのタイアップ
ハースト婦人画報社   ヴァンサンカン&リシェス編集部 編集長   十河ひろ美 氏

十河ひろ美 氏

編集タイアップは「自社の商品をその雑誌(メディア)の世界観で紹介してもらうもの」だ。では、平均世帯年収2000万円以上の読者が多い究極のラグジュアリー雑誌「リシェス」の場合はどうだろうか。ハイエンドマガジンの編集タイアップの考え方と、その世界観を知るための媒体特性や読者について編集長の十河ひろ美氏に聞いた。

──十河さんは「Richesse(リシェス)」「25ans(ヴァンサンカン)」両方の編集長をされていますね。

  「ヴァンサンカン」は月刊、「リシェス」は季刊ですから、年16冊作っています。「リシェス」を作る4回は「ヴァンサンカン」と同時進行です。それからデジタルにも力を入れていて、来年1月に「25ansONLINE(ヴァンサンカン・オンライン)」のリニューアルも予定しています。今は、その3つを2人の編集代理と4人の副編集長という体制で回していて、毎回が体力勝負です。といっても、作っているのはラグジュアリーマガジンですので、誌面からそういう大変さは見えないと思いますが。ですので、編集部は「あひる」ではなく、「白鳥(の水かき)」と自分たちでは言っています(笑)。

──その中で「リシェス」は、どういう雑誌でしょうか。

  「富裕層のためのハイエンドマガジン」という位置づけです。私たちの会社の作っている雑誌は、「婦人画報」「Harper's BAZAAR(ハーパーズ バザー)」「ヴァンサンカン」と、基本的にどれもラグジュアリーマガジンですが、その中でも頂点に位置するのが「リシェス」です。
  「リシェス」の読者は、平均で世帯年収2917万円、資産総額11.1億円、百貨店の外商を利用している人が51.0%います。発行部数は4万部ですが、そのうちの半分は様々なかたちでの定期購読です。実は、書店に並ぶ「リシェス」と定期購読でダイレクトに読者に届く「リシェス」では、表紙の文字を変えています。書店版は内容がわかりやすいように見出しを日本語にしていますが、定期購読版はリビングに置いたときに見目麗しいようにメーンの見出しを英語にしています。12年6月創刊ですが、創刊号ではここに「Ultimate Luxury(究極の贅沢)」という言葉を使いました。「リシェス」を表す言葉として最もふさわしいと思いますね。

リシェスNo.14の表紙(定期購読版)

リシェスNo.14の表紙(書店版)

インプレッションからブランド醸成へ

──そういう雑誌を、どういう人たちが定期購読しているのでしょうか。

  例えば、百貨店の個人外商のトップ顧客、ポルシェやフェラーリなどスーパーカーのオーナーズクラブのメンバーのお客様、馬主や船のオーナー、そういう人たちですね。

──男性も読んでいるということですか。

  もちろん女性中心ですが、最近は男性もだいぶ増えてきました。創刊当初は男性は1割だったのですが、今は2、3割は男性です。やはりダイレクトにお宅に届くので、ご夫婦でご覧になるパターンが多い。ファッションやジュエリーが記事の中心ですが、ご夫婦で見る読者も意識して、旅やグルメの記事も充実させています。例えば、馬主の中には2億円、3億円の競走馬を買う方もいらっしゃるわけで、そういう方にとっては2千万円、3千万円の車はリーズナブルなんですね。表紙に登場するコートがオートクチュールで発表された5千万円くらいのものであったり、記事で紹介する宝石もユニークピース(一点物)の数千万円から数億円のものが中心です。私自身の生活とはまったく関係のない仕事をしておりますね(笑)。

──広告主は「リシェス」に何を期待しているのでしょうか。

  一つは、やはりレスポンスです。しかし、「リシェス」読者のレスポンスは「ヴァンサンカン」とは違います。「ヴァンサンカン」読者も一般的には高所得層ですが、興味があると電話ですぐ問い合わせをする人たちが多い。「リシェス」読者には、自ら問い合わせる方もいらっしゃいますが、百貨店の外商や各ブランドの顧客担当がお客様と接したときに、「『リシェス』に出ていたあの服いいわね」「あの宝石いいわね」という形で反響をいただいております。

──カタログ的な使われ方をしている?

  そういう面はありますね。ただ、単なるカタログとは違った絶妙な写真の撮り方が求められます。通常のカタログの場合は商品をしっかり見せることが重視されますが、きっちりし過ぎても、また逆に抽象的になり過ぎても訴求効果が高まらないのです。写真としてのクオリティーを保ちながら、商品のディテールもわかる。それがラグジュアリー誌の写真には求められます。
  広告主が雑誌に求める二つ目が、ブランドの価値やイメージを良いかたちで高めて伝えることです。特に欧米のラグジュアリーブランドの場合、ゴシップ記事が入った雑誌には広告を入れたがりません。ラグジュアリーブランドというのは欧米の社交界とつながっているので、その文化的背景を含めた作り方が求められるということです。

──そこで重要になるのは、写真やレイアウトということですか。

  そうですね。ただ、「リシェス」はモード誌でも、婦人誌でもなく、ユニークな立ち位置かつ、ハイクオリティーなライフスタイルマガジンなので、夢のある表現が求められる。そして、一般に言うところの“夢”とは、リシェス読者にとっては“リアル”でもあるのです。

顔の見える編集がタイアップのポイント

──「リシェス」ではどのように編集タイアップを作っているのでしょうか。

  まず「リシェス」とタイアップを行いたいという広告主は、これまでお話ししてきたような「リシェス」的なものを求めて依頼されるところがほとんどです。しかも、「リシェス」にマッチした商品を選ばれるので、そのあたりに問題を感じたことはありません。「リシェス」のタイアップで最も大事なのは、実は「写真をどういうイメージで撮るか」です。この打ち合わせをかなり綿密に行います。「今回はこういうイメージでいこう」という方向が決まると、フォトグラファーの候補が絞られる。例えば、それをロケで撮るのかスタジオで撮るのか、あるいはシャープに撮るのか少し柔らかく撮るのか。それによってフォトグラファーの選定が変わってくるわけです。

──はじめに写真ありきなんですね。

  それは通常の編集面でも同じです。ラグジュアリー誌では写真のクオリティーが決定的に重要です。分野によってレギュラーでお願いしているフォトグラファーはほぼ決まっていますが、事前にこんな写真を撮ろうというコンテを考え、最終的には上がってきた写真を見てページの展開を決めています。写真のクオリティーにこだわるのは、タイアップでも変わりません。

──そのほうがタイアップページも、レスポンスがいいということですか。

  そうです。例えばパーティーでお目にかかったVIPの方がいて、その人が好みそうなページの仕立てを考える、すなわち「顔の見える編集」というのが、ラグジュアリーマガジンにとっては大切なんです。これはラグジュアリーマーケティング全般に言えるポイントだと思います。そういう意味では、ラグジュアリーマガジンの編集というのは、外商の仕事に似ているかもしれません。

ティファニーとのタイアップページ

ウェブをラグジュアリーの入り口に

──デジタルに力を入れているということですが、具体的にはどのようなことを行っているのでしょうか。

  ハースト婦人画報社では、アメリカの本社主導によるデジタル戦略に注力しています。「雑誌も発行するデジタルパブリッシャー、コンテンツパブリッシャー」という認識でやっていこうということです。私たちは、出版社の中ではデジタル化に積極的に取り組んできました。例えば、ELLE SHOPというコマース事業は、エディターがプロデュースするという出版社ならではのファッションのECサイトに育ってきています。「ELLEONLINE」はヤフージャパンと同じ96年にスタートしていて、デジタル世代にもしっかり定着しています。

  「ヴァンサンカン・オンライン」も5年前にできています。ただ「ヴァンサンカン」は、これまでは紙媒体が中心でしたが、それがここ数年のスマホの普及でページビューも増え始めました。2年前に比べ月間PVは約2倍になっています。また来年1月には全面をリニューアルし、大幅な拡大を狙います。これまでは雑誌の記事をリメークしてオンラインに掲載していたのですが、リニューアル後はオリジナルの記事を増やし、デイリーで更新していきます。タイアップに関しても、オリジナルな展開ができるようになります。

──「リシェス」のオンライン版の予定はないのですか。

  「リシェス」は当分は雑誌のみですね。「ラグジュアリープラットフォーム」と呼んでいるのですが、ハイエンドの「リシェス」の下に「ヴァンサンカン」の本誌があって、その下にラグジュアリーの入口としての「ヴァンサンカン・オンライン」がある。この体制により、日本のラグジュアリー市場を網羅し、けん引するメディアであり続けたいと思います。

──「リシェス」のようなハイエンドのライフスタイル誌が成功するという確信は、創刊時にあったのでしょうか。

  読者にふさわしい人たちは絶対にいるという確信はありました。私は来年で30年、ラグジュアリー誌の編集に携わることになるのですが、バブルの頃の日本のラグジュアリーのあり方と今の成熟したマーケットでのそれとはまるで違います。現在の日本は世界的に見てもかなり洗練されています。ところが、世の中全体としては経済が長期間停滞したこともあり、「消費者目線」「お客様本位」という言葉の下に日本の消費のクオリティーがフラットになり過ぎてしまった。けれども、誰もがちょっと夢を持ったり、少し余裕が出てくれば贅沢したいと思うのは自然なこと。だから私としては、いろいろな人に「リシェス」を見ていただけたらと思っております。

Hiromi Sogo

1986年婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)に入社。「mcシスター」「25ans」の編集長として活躍後、99年に退社し「ヴォーグ ニッポン」(「現ヴォーグ ジャパン」)、「MISS」などの編集長として多くの女性誌を手掛ける。ラグジュアリー誌やモード誌の豊富な経験を活かし、現在は再び「25ans」「Richesse」の編集長として采配をとる。