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ojoトップ  > 特集  > インフォグラフィーな社会で:なぜ今、インフォグラフィックスなのか

特集インフォグラフィーな社会で

(Fri Feb 05 10:02:00 JST 2016/2016年2・3月号 特集)

なぜ今、インフォグラフィックスなのか
  グラフィックデザイナー/チューブグラフィックス 代表取締役   木村博之 氏

木村博之 氏

「インフォグラフィックス」が本格的に注目されるようになったのは、2011年秋から経済産業省が推進した「ツタグラ(伝わるINFOGRAPHICS)」からだが、今やデザインだけでなく、ビジネスのプレゼンテーション・テクニックとしても注目されるようになっている。インフォグラフィックスとは、そもそもどんなものなのか。インフォグラフィックスの第一人者、木村博之氏に聞く。

──「インフォグラフィックス」は、いつ頃できた言葉なのでしょうか。

  「インフォグラフィックス」は、インフォメーションとグラフィックスを合成した言葉で、もともとは海外の新聞やニュース系雑誌のデザイン部門で使われていました。日本で使われ出したのは90年代に入ってからですが、インフォグラフィックスが注目される大きなきっかけになったのは、経済産業省が東日本大震災後に始めた「ツタグラ(伝わるINFOGRAPHICS)」からです。デザイナーの力を借りれば日本国内だけではなくて海外に向けてもっとアピールしていけるのではないかということで始まったプロジェクトです。経産省が面白いことを始めたというので、いろいろなメディアで紹介され、それから一気に広がりましたね。

──インフォグラフィックスとは何か、改めてお聞きしたいのですが。

  インフォグラフィックスは、「データの持つ意味を見つけ、組み合わせ、情報という価値に変えるコミュニケーションのための視覚表現」です。昔はダイアグラムと呼ばれていましたが、私自身はダイアグラムを「図解」に限定して、インフォグラフィックスの一要素と考えています。インフォグラフィックスには、このダイアグラムのほか、チャート、表、グラフ、地図、それから案内板のように絵を使って情報を伝えるピクトグラムなどがあります。

「長野オリンピック  公式ガイドブック  ボブスレー」

(財)長野オリンピック冬季競技大会組織委員会 発行・監修 1996年 「当時、ボブスレーはほとんど知られていない競技だった。ボブスレー・リュージュ協会のある札幌まで出向き、少しの距離ながら実際に体験させてもらい表現を詰めていった」(木村)

データは捨てるから「伝わる」

──デジタルメディアの普及も、インフォグラフィックスが注目されてきた背景にはあると思うのですが。

  メディア特性に合わせてインフォグラフィックスも進化してきているということだと思います。紙メディアで進化してきたインフォグラフィックスは一枚の絵で表現するのが基本ですが、デジタルメディアでは動きがあって初めてわかる表現が当たり前になってきています。例えば、どの県からどの県へ人口が流入しているかという移動人口も、動きがあるほうがわかりやすい。紙ではできないような表現がデジタルでは可能になっています。

──動画的な表現が増えてきたということですか。

  一時期、企業説明などにインフォグラフィックスを使った2、3分の動画のモーショングラフィックスにして見させるのが流行りましたが、ナレーション入りで画面の切り替わるのも早く、見るほうが主体的ではないのでどうしても途中で飽きてしまう。最近はテレビドラマにも登場しますが、こちらは単体でなくストーリーと一体になっているので効果的な印象です。それから、電車のドアの上にある「車両デジタルサイネージ」にもインフォグラフィックスが使われるようになってきています。インフォグラフィックスは言葉がなくても伝わるのが理想です。ピクトグラムが代表的な例ですが、街や駅の案内板は外国の人が見てもわかる。車両デジタルサイネージも、インフォグラフィックスなら音声や文字の説明がなくても理解してもらえるわけです。

──ビッグデータの活用が注目されてから「データ・ビジュアライゼーション」という言葉も使われるようになりましたが、インフォグラフィックスとはどう違うのでしょうか。

  データ・ビジュアライゼーションというのは、膨大なデータの中から有用な情報を抽出するためにデータ全部をビジュアル化・見える化することです。相互の関係性を見るためには数値の小さいデータも大きな意味を持っている可能性があるので省略できない。表現方法としては地図やグラフ、チャートが多く、カーソルをあてると相互につながったり、グラフなどが動き出したり引きつける魅力は大きい。ただし、そこから意味を見出すことは見る側にゆだねられているので、きれいなだけでない、わかりやすいデザインが求められます。

  一方、インフォグラフィックスは、同じグラフを使うにしても、データを「こう見てほしい」というつくる側のメッセージや意図があって作られるものです。そのためにはデータを捨てるという行為が大切になります。ものを整理するとき、必要なデータだけ残し思い切って捨て、見せ方を強調したり演出するのが、インフォグラフィックスということです(図1)。
  別の言い方をすると、インフォグラフィックスはメッセージを伝えるために、データを価値のある情報に変えるわけです。そういう意味で、インフォグラフィックスは企業のコミュニケーション活動とも非常に相性がいい。最近の広告はイメージではなく、商品やサービスの内容を把握してもらう方向に変わってきています。投資家に向けたIRやステークホルダーに向けたCSR活動をわかりやすく伝えることが大事になってきています。さらに、プレゼンテーションのテクニックとしてもインフォグラフィックスが注目されるようになってきました。

「伝わるメッセージ」にするには

──実際、インフォグラフィックスはどのような手順で作るのでしょうか。

  そういう質問があるだろうと想定して、答えをダイアグラムでまとめてみたのが図2です。インフォグラフィックスとは、言い換えれば「伝えたいメッセージ」を「伝わるメッセージ」にすることです。
  インフォグラフィックスの制作は、「データを集める、選ぶ」ことから始まります。実際の依頼で一番多いのは、こういうデータをうまく見せてほしいというパターンです。マーケティング部門にたくさんデータがあっていろいろ調べてはいるけれど、どれが一番伝えたいデータなのかわからないことが実は多いのです。自分が言いたいこととデータを結びつけて考えられていないんですね。
  そこでまずやらなければいけないのが、「コンセプトと軸」の設定です。コンセプトは何かというと、「○○○として、伝えたいことは何か。伝えたい相手は誰か」ということです。つまり、誰に何を、WhoとWhatを明らかにすることです。

図2  インフォグラフィックス作成のキーワード「コンセプトと軸」

※「フレーミング」は自分にとって最良だと思う形を見つけること。「リフレーミング」は、見る人や使う人の立場に立って、その人にとっての最良の形を見つけ出すこと。例えば、会社の案内図はただ地図を簡略化すればいいというものではなく、初めてそこに行った人が迷わずたどり着ける目印が強調されている必要がある。逆に言えば、目印にならない大きな建物は省いてもいい。 ※「フレームワーク」は、対象が小学生なら小学生に合わせたしゃべり方をすること。子供に人気のキャラクターに語らせたり、昔話のストーリーを借りて、説明するのも「フレームワーク」。また、説明をストーリー・物語にすると共感も呼びやすくなる。

  
  コンセプトが決まったら、次に、それを「どのように伝えるか」という「軸」を設定します。コンセプトをHow、いかに見せるかということです。軸にも、業務の流れや商品の開発史のように「時間軸」に沿って見せたほうがわかりやすいものもあれば、「自分軸」や「相手軸」で整理する方法もあります。例えば、図3です。中間所得層の割合とその国の経済発展の段階は相関が高いのですが、アジア各国の中間所得層の割合が日本の経済発展のいつ頃の時代に当たるのかと比較すると、俄然わかりやすくなりますよね。この日本経済の発展段階が「自分軸」です。

  それから、プレゼンで一番わかりやすいのが「対称軸」です。Before-Afterはそのバリエーションです。「今のまま行くと御社はこういう道を辿りますが、もしこのシステムを入れたらこんなふうな未来が広がります」(図4)と対比して見せるやり方は、プレゼンでは非常に有効です。

  こうした「コンセプトと軸」は、インフォグラフィックスの柱です。一般的なプレゼンの場合は、ここをしっかり詰めれば十分で、別に動画や音が出なくてもいい。ただ、プロフェッショナルなインフォグラフィックスの場合は、さらに味付けやスパイスを加えます。それには人の目をひきつける「Attractive」、見やすく読みやすい形に要素を配置する「Flow」など6つの要素がありますが(図2)、「コンセプトと軸」という大黒柱がグラグラしていたら伝わるメッセージにはならないということです。

──データを捨てることによって伝わるメッセージになるというのは、目からウロコでした。

  結局、情報というのはデータの中に価値を見つけるというより、データとデータを結びつけることによって本当に価値のあるものになるということだと思うのです。カリフォルニア芸術大学デザイン戦略MBAプログラム・ディレクターで、情報デザイナーのネイサン・シェドロフが描いた「理解の外観図」があります。人が物事を理解する段階を示したもので、図2の右下にそれを簡略化したものを描いておきました。彼がこの図で言いたかったことは、「理解とは、データ(Data)から知恵(Wisdom)への連続した観念と考えるべきだ」ということです。インフォグラフィックスというのは、この中の「データを情報に変える」最初の一歩です。データを単なる数字の塊ではなく、意味を持った情報にする。それが体系化・構造化されて知識となり、人に伝えられ、人々をつなぐ「知恵」になっていく。その一番根っこの部分にインフォグラフィックスはあると思っています。

Hiroyuki Kimura

宮城県女川町生まれ。明治大学卒業(地理学)。有限会社モリシタで地図を中心としたインフォグラフィックス・デザインに携わる。1986年に独立し、株式会社チューブグラフィックスを設立。1995年SND(The Society for News Design) Malofiej Infographics Awardsで金賞受賞。1996~97年Malofiej Awardsの審査員。2009年、第30回SND国際コンテスト審査員。2011〜13年、経済産業省主催の「ツタグラ(伝わるインフォグラフィックス)」のアドバイザリーボード。2014年版経済産業省「中小企業白書」インフォグラフィックスを担当。現在、日本経済新聞のデザインコンサルタントや朝日新聞広告局のインフォグラフィックス広告「INFO-GRA!」のコンセプトデザイナーとして協力中。千葉大学などで講師をつとめる。著書に『インフォグラフィックス―情報をデザインする視点と表現』(誠文堂新光社)、『システム企画・提案の図解術』(日経BP社)ほか。(株)チューブグラフィックス www.tubegraphics.co.jp/