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特集インフォグラフィーな社会で

(Fri Feb 05 10:01:00 JST 2016/2016年2・3月号 特集)

データや情報を用いていかに人の心を揺り動かすか
PARTY   クリエイティブディレクター   伊藤直樹 氏

伊藤直樹 氏

写真:石塚定人

伊藤直樹氏はこれまでナイキ、グーグル、ソニー、無印良品などのクリエイティブディレクションを手がけ、世界的にも評価の高いクリエイティブディレクターだ。11年にはクリエイティブラボのPARTYの設立に参画し、広告のみならずプロダクトや空間のディレクションも手がけている。昨年4月に完成した成田空港「第3旅客ターミナル」のサイン設計もその一つ。人を誘導するサイン設計はインフォグラフィックスの最たるものだ。情報デザインの最先端で活躍する伊藤氏は、それにどんな姿勢で取り組んでいるのだろうか。

──3D写真館や「MUJI to GO」のキャンペーンもそうですが、ここ数年の伊藤さんは背中に関心があるように見えます。理由があるのでしょうか。

  3D写真館「OMOTE 3D SHASHIN KAN(オモテサンドウシャシンカン)」というのは、ポートレート写真の人物を3Dスキャナーと3Dプリンターを使ってスキャンし、フィギュアにしようという企画です。人の顔は魅力的なので、どうしても顔を中心に撮る。でも、実は、その人の思い出とか記憶というのは、顔だけがすべてではない。例えば、子供の頃、母親がキッチンで料理をしているとき、背中を見ながら話しているようなことが多かったと思うのです。人の背中にも、実は記憶がある。背中がトリガーになって、いろいろ思い出すこともあるわけです。「MUJI to GO 地球の背中(mini to Go)」のキャンペーン動画は、家族が旅をし、目的地である地球の裏側(=背中)で自分たちの3Dフィギュアと対面するというストーリーを映像化したものですが、これも家族の背中が家族の思い出のトリガーになることを意図したものです。

「MUJI to GO 地球の背中(mini to Go)」キャンペーン動画(2013年)の家族の3Dフィギュア。2012年にはPARTYの主催する世界初の3D写真館「OMOTE 3D SHASHIN KAN(オモテサンドウシャシンカン)」が期間限定でオープンしている。普通のポートレートでは人の顔に関心がいってしまうが、3Dフィギュアは正面からの写真では写らない「背中」が再現できる。

──背中がトリガーになる」という着想の中にインフォグラフィックスと通じる部分はありますか。

  根底ではつながっていると思います。インターネットが進化して、「情報デザイン」がますます重要になっています。スマホあり、タブレットあり、ウェアラブルデバイスあり、そのすべてがネットワークでつながり、データの取得が可能になってきた。CPUの処理能力も上がって、データ量も飛躍的に増えてきた。ここまで情報が増えてくると、人間の性質上、非言語メディアに頼らざるを得なくなってきます。それをわかりやすく視覚化しようというのが、データビジュアライゼーションであり、インフォグラフィックスだと思っています。そこで最も大事になってくるのは、「データや情報で、いかに人の心を揺り動かすことができるか」だと僕は思っています。

成田空港を陸上トラックにしたワケ

写真:長谷川健太

伊藤氏がクリエイティブディレクションした「成田空港第3旅客ターミナル」のサイン。色分けされた陸上トラックのような導線、ガラスではなく金網を使用した出発ゲート、450席のフードコートなど、"LCC(格安航空会社)らしさ"をふんだんに盛り込んだターミナルとなっている。

──成田空港の第3旅客ターミナルのクリエイティブディレクションにも伊藤さんは携わっていますね。サイン設計もインフォグラフィックスの一つだと思うのですが。

  スカイツリーを設計した日建設計から、成田空港の第3旅客ターミナルを作るので、そのサイン設計をしてほしいという依頼があったのです。通常、サイン設計は施設ができてから必要なところに設置していくのですが、建築計画の段階からサイン設計を念頭に置いた空港を作りたいという姿勢に興味を持ち、喜んで参加させていただきました。ただ、サインの役割というのは基本的には利用客の誘導です。コミュニケーションに携わってきた僕が成田空港に貢献できることは何だろうと正直悩みました。その結果、出てきたのが空港の誘導を陸上トラックにしようというアイデアです。

──なぜ陸上トラックという発想が出てきたのでしょうか。

  第3旅客ターミナルは、ローコストで運営するLCC(格安航空会社)向けのターミナルです。サインの予算も一般的な空港の予算と比べてほぼ半分程度でした。乗客を誘導するためのサインになる光る看板や動く歩道を設置することさえもできない状況でした。しかも、空港第2ビル駅のある第2ターミナルと第3ターミナルの間は600メートル以上あります。それをシャトルバスか徒歩で移動するしかない。いかに機能的かつ、楽しめる環境にするかが課題でした。それで、ターミナルの通路すべてを陸上トラックにすれば、デザイン自体が人を誘導するサインの役目を果たすし、長い距離さえもポジティブに転換できると考えたのです。
  搭乗口までの導線は空に向かう青のトラックに、出口までの導線は陸を表す赤茶のトラックにしました。人は無意識に白線に沿って歩くので、列が大きく乱れることもなく自然と整列してもらえます。完成後、人の動きを見ても、立ち止まって話す人たちは誰に言われたわけでもないのにコースから外れるんですね。

──トラックは本物と同じ材質ですか?

  実際に陸上競技で使われているゴムチップ製の床材を使っています。普通の人にとってみれば、陸上トラックというのはテレビや観客席から見るものです。第3旅客ターミナルでは、普通の人がその舞台に立てる。しかも、床材は反発力がありますから、長い距離を歩いても足の負担が少ない。自分の身体機能を拡張してくれるから、歩いても楽しいんですね。インフォグラフィックスで大事なのは人の心を揺り動かすことだと言いましたが、そのトリガーが陸上トラックだということです。

人の心を揺り動かすデータの見せ方

──インフォグラフィックスで人の心を揺り動かすとはどういうことか、もう少し説明してもらえますか。

  数年前から京都造形芸術大学情報デザイン学科で教えているのですが、そこで学生たちに「1日の自分の行動をインフォグラフィックスで表現する」という課題を出しています。芸大生だけあってユニークな発想をする学生が多い。例えば、「1日に抜けた髪の毛の本数をインフォグラフィックスにしました」という学生がいて、時間別に自分の抜けた髪の毛を拾い集めて、それをカツラに貼り付けてきました。それを示して、「午前中25本抜けました」というわけです。かなり気持ちが悪いけど、発想はいいですよね。
  それから、ご飯茶碗ではなくて、お茶の茶碗を実際に焼いてきた学生もいました。中が円グラフのように仕切られていて、ジュース40%、紅茶20%、緑茶15%という具合に、それぞれの仕切りには自分が1日に摂取した割合の飲み物が入っている。
  データをビジュアル化するというのは、単に棒グラフにするとか、円グラフにすることではないんですね。落ちた髪の毛を植毛してグラフに見立てるのも、茶碗の内側を仕切って円グラフに見立てるのもインフォグラフィックスなんです。データに血を通わせるというか、データによって人の心を揺り動かすことができるかというのが、インフォグラフィックスの授業の根底にあるテーマなんです。それは、学生に課題を出すときにしつこいくらいに強調していることでもあるんです。成田空港の陸上トラックの発想も同じです。「ヨコかな?」も結局、そういうことなんですよ。

──「ヨコかな?」というのは、「ひらがな」をキャラクター化したものですよね。

  単に「ひらがな」をキャラクター化しただけでなく、人工知能を搭載して、例えばユーザーの「マジで!?」というつぶやきに反応し、「で」の形をした「ヨコかな?」が「ですよね〜」と相槌を打つといったコミュニケーションができるよう開発中です。「ヨコかな?」は、僕の解釈では、人工知能の見える化、視覚化なんです。最近は音声認識や人工知能も実用化していますが、無機質なパソコンとしゃべるとしたら、人間あまりワクワクしないと思うのです。でも、それがキャラクター化していれば、感情移入もしやすい。アニメーション(animation)の語源はもともとラテン語のアニマ(anima)で、生命のない動かないものに息吹を吹き込む、命を与えるという意味ですよね。

伊藤氏のPARTYと映像制作会社の白組が共同制作した人工知能搭載の文字キャラクター「ヨコかな?」。「ひらがな」に「個性・人格」を持たせ、1文字1文字をキャラクター化し、文字を90度回転させると人になるなど見た目もユニーク。人間の声や入力に反応し、人工知能によって自由に会話ができる感情を持った「絵文字」でもある。

共通体験を蘇らせるトリガーを仕込む

──最初の「背中」の話とインフォグラフィックスのつながりについて、もう少し詳しく教えてください。

  母親の背中を見ると、それがトリガーになって過去のいろいろなことを思い出す。陸上のトラックを見て思わず走りたくなるのは、テレビで見た世界記録を出したときのボルトや他のアスリートの姿と重なり、自分も走ってみたいという気持ちにさせるからです。それが感動やワクワク感につながるということです。つまり、背中や陸上トラックがみんなが持っている共通体験のトリガーになっているからです。そういうトリガーを設計するのが、インフォグラフィックスであり、もっと広く言えば情報デザインだと思うのです。
  成田空港で僕がやったことというのは、そういう体験の脚本を書き、演出することです。空港に着いて、飛行機に乗り、飛び立つまでの体験のストーリーの枠組みをまず考える。それから一つ一つの局面で、どうだったら楽しいか、どうやったら暇を持て余さないかを、体験の流れに沿って演出したということです。国内線と国際線が分かれるところをあえて急カーブにする。子供の頃、カーブを曲がりきらなくて、「おっとっとっと」となった経験が誰にもある。そういう体験がワクワク感を生むワケです。
  人が感動するのは、そこにみんなに共通する記憶や知的好奇心、身体感覚に訴えるストーリーがあるからです。ストーリーは語るものというのは20世紀の考え方で、ストーリーをいかに体験してもらうかが今は大事になってきている。その体験をデザインすることが僕らの仕事だということです。

Naoki Ito

クリエイティブディレクター。1971年静岡県生まれ。早稲田大学卒業。テクノロジーとストーリーテリングの融合を追求するクリエイティブラボ「PARTY」のCEO。これまでにナイキ、グーグル、SONY 、無印良品など企業のクリエイティブディレクションを手がける。「経験の記憶」をよりどころにした「身体性」や「体験」を伴うコミュニケーションのデザインは大きな話題を呼び、国際的にも高い評価を得ている。最近の作品に、成田空港第3ターミナルの空間デザインやサンスターのハミガキIoT「GUM PLAY」などがある。文化庁メディア芸術祭優秀賞、グッドデザイン賞金賞、カンヌ・ライオンズ金賞など、国内外の200以上に及ぶデザイン賞・広告賞を受賞。作品集に「PARTY」(ggg books)などがある。経済産業省「クールジャパン官民有識者会議」メンバー(2011、2012)。NYの国際広告・デザイン賞ワンショーの国際ボードメンバー。京都造形芸術大学情報デザイン学科教授。