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ojoトップ  > 特集  > インフォグラフィーな社会で:「分類」と「見立て」で作るインフォグラフィックス

特集インフォグラフィーな社会で

(Fri Feb 05 10:00:00 JST 2016/2016年2・3月号 特集)

「分類」と「見立て」で作るインフォグラフィックス
  著述家・編集者・分類王   石黒謙吾 氏

石黒謙吾 氏

情報伝達やプレゼンテーションに役立つインフォグラフィックスとは対極にあるように見えて、多彩な著作に加え、プロデュース・編著も200冊を超える石黒謙吾氏の作るアート作品のようなインフォグラフィックスやその発想は、一般のビジネスマンにも深い示唆を与えてくれる。「インフォグラフィックスは分けることから始まる」と説く分類王・石黒氏の話を聞いた。

──「分類王」を名乗られています。石黒さんの考える“分類”について教えていただけますか。

  分類とは「似て非なるものの差を見つけること」と定義しています。例えば、カブトムシとクワガタの違いは分かりやすいですが、京都のお寺の本堂の形の違いは分類しにくい。それがなぜ難しいかというと、インプット時にボンヤリ見てしまっているから。何かを見たときに、印象深いポイントを記憶として埋め込むような「意識的な認知」ができていると、頭の中にタンスの引き出しを作るイメージで定着していきます。

──「意識的な認知」、難しそうですね。

  決して難しいことではありませんが、いくつかポイントはあります。まず、分類は俯瞰するところから始まります。というより、俯瞰(ふかん)しなければ分類も選択も決定もできません。例えば「動物で一番好きなものは?」と聞かれたらすぐに答えられるはず。でも、「東欧の国を好きな順に並べてみて」と問われたらどうでしょう? そう、東欧とはどこからどこまでなのかが分からなければ(つまり俯瞰できていなければ)決定はできません。

──俯瞰して分類せよと。それからどうなりますか。

  重要なのは、分類には無限の組み合わせがあるということです。人間はどうしても既存の枠組みにとらわれがち。だからこそときにはそのくくり方を変えてヨコにスライドさせていく“ヨコ思考”をおススメしています。
  例えばあなたが飲料メーカーのマーケティングの仕事をしていたとして、新商品のお茶を企画しなければならなくなったとします。他社のお茶の特性を分析すると、「お〜いお茶」と「伊右衛門」は本格派のイメージ、「生茶」と「爽健美茶」はカジュアルイメージ、さらに細かく分類していくと各社の特性が把握でき、自社がどんなお茶を開発すべきかが見えてきます。そこから「ウチの茶葉にはこんな特性があるから、こんな商品にしよう」というのは典型的な“タテ思考”です。これに対して“ヨコ思考”は、「じゃあコーラの業界はどうだっけ?」「牛乳のパッケージは?」「レトルトカレーの進化の歴史って?」と考えていくこと。思考を違うほう違うほうへと飛ばしていきながら、全く異なる事象に共通項を見出すことができると、斬新なアイデアが生まれる可能性が出てきます。

──ヨコ思考はアイデア出しに最適ということですね。

  はい。特に、発想の最初であるほど、タテ思考で考えてしまうのは避けたいところです。パッと思いついたところから、ヨコにヨコに広げていく。このとき、論理的につなげていく必要はなく、極めていいかげんに。とにかくボンヤリと俯瞰的にイメージを広げ、突き詰めないことが重要です。
  例えば私の過去の仕事で言うと、2013年に雑誌『BRUTUS』のラブソング特集で「アーティストや曲を題材にして、2ページでいくつか面白いチャートを作ってほしい」という依頼がありました。分類のくくりとしては、メロディーや悲しい・切ないなどの気分、詞なら失恋・結婚などの意味、などいくつか思いつきますが、それでは工夫がなく無難すぎます。このときは「温度と湿度」という切り口にしました。熱いかクールか、湿っぽいかカラッとしてるか、つまり体感で分けたのです(図1)。オリジナルな発想を生み出すには、こういったニッチなゾーンの抜き出しがポイントになると思います。

発想を愛でるインフォグラフィックス

──この思考のアプローチはインフォグラフィックスの制作にも活かされていますね。石黒式インフォグラフィックスの事例を教えてください。

  わかりやすいのは「足ツボの地図」でしょうか。一見すると、単なる「足ツボ」の図ですが、よく見ると、右足が南アメリカ大陸、左足がアフリカ大陸になっている。「だから何?」と言われると返す言葉はありません(笑)。普通、インフォグラフィックスというと、「テキストだけでは伝わりにくい複雑な情報を伝達するのに役立つ」という目的があると思いますが、僕の分類王ラインの作品では、「役に立たない」方向に発現していきます。「わかりやすく」という動機はゼロ。できる限り見たこともない料理法で、ある事象を“見立て”の効いたビジュアル表現にしてみたい。その発想を自ら愛(め)でる、という考え方なんです。

「足ツボ」の図から発想した地図のビジュアル(グラフィック作成/小宮山秀明)

──「見立て」とは?

  「何かと何かが似ている」と結びつけることです。整体で足ツボの図を見て、「地図に似ている」と思いました。
  実はこの「足ツボ地図」は、以前『編集会議』(宣伝会議)に連載していたインフォグラフィックス記事の一つで、その発想から定着までの流れをダイヤモンドオンラインの「発想を広げるインフォグラフィック思考」で解説しています。「足の形ならアフリカ大陸に似ている」「『編集会議』の掲載は見開き2ページだ」「両足にするなら、もう一つは南アメリカ大陸に似ているな」。この図を思いついたときの「発想」、思考の流れは、そういう順番です。後は、「定着」です。左足にアフリカ大陸、右足に南アメリカ大陸の国境を当てはめていくだけです。
  もう一つ分類王的作品を挙げるとすれば、「ビジュアル般若心経」があります。マニアック過ぎて普通の人には何がすごいのかわからないと思いますが(笑)、自分の中では会心作です。

──「般若心経」に使われている漢字を絵文字にしたものですよね。もともと表意文字の漢字を再変換してアイコン化した?

  般若心経は漢字266文字で書かれているのですが、それを1文字1文字、使われている漢字ではなく、できるだけ意味に忠実に119種類の絵文字にしていったのです。この場合、「発想」は一瞬ですが、「定着」には3日かかりました。例えば、「心」という漢字ならハートマークにすればいいとすぐ思いつきますが、中には、意味より音的効果を狙った文字もあって相当苦しみました。でも、こういうのが一番好きな作品ですね。

般若心経(右図に該当する部分)

般若心経の119種類の文字をアイコン化した「ビジュアル般若心経」(部分)
(グラフィック作成/小宮山秀明)

既成概念を捨てることから始まる

──そういう石黒式インフォグラフィックス思考から、一般のビジネスマンが学べることが何かないかと思うのですが。

  インフォグラフィックスと聞くと「つくるもの」と考えがちですが、実は「分けること」から始まります。これが冒頭で話した「分類」です。人は「分けなければ分からない」。うまく分けられたら(発想)、それをどう表現するか(定着)だけです。逆に言うと、うまく分けられなければ、説得力のあるインフォグラフィックスにはならない。集合の関係を図で表したものがベンチャート(ベン図)ですが、分類とインフォグラフィックスは包含関係にあるということです(図2)。
  といってもこれは特別なことではなくビジネスの現場では少なからず誰もが要求される思考だと思います。例えば、図書館司書は図書分類どおりに本を分類するのが仕事ですが、書店員は、そんなことをする必要はありません。「ハワイ」というくくりで、地図やエッセイ、写真集をいっしょに同じ書棚に置いたほうが売れるかもしれない。今までの自分の見方、既成概念を捨てることからオリジナルな分類は始まります。

──分けた結果をどう見せるかですが。

  図3によく使う10種類のチャートを挙げました。先ほどのベン図もそうですが、数値を比較するならバーチャート(棒グラフ)、構成要素の割合を比較するならパイチャート(円グラフ)、全体の中での位置付けを比較するならマトリクスチャートといろいろあるので、まず目的に合ったチャートはどれか探す。何でも棒グラフや円グラフで表しても適切ではないからです。これは基本中の基本で、こうして分類の見せ方の形を頭に入れておくことは、仕事以外の日々の生活でも必ず役立ちます。森羅万象さまざまなものをグラフやチャートにあてはめて考えていくのは、知的好奇心を刺激し、面白いものです(図4、図5)。
  次の段階としては、逆に課題を無理やり10種類のパターンにあてはめてみるのも、いい練習になると思います。例えば、お茶をどう分類したらレーダーチャートやツリーチャートで成立させられるか考えてみるということです。

赤系統はいいヤツ、青系統はわるいヤツというのはよく知られていますが、シロート目のただの印象だけで、もう少しいじくってみるとこうなりました。「塗りの面積」と「恐怖感」は正比例するように思えますが、意外とそうでもないのです。大入隈のように、べっとりヘビーでもスラプスティック(どたばた)なルックスのものもあれば、「車引」松王丸のように、すっきりライトでもバイオレンスってものもあります。ポイントは、曲線のRと、絵筆の「はらい」「とめ」。

(注)図4、図5とも『図解でユカイ』のキャプションから。

動物園は老若男女が楽しめる行楽スポットですが、くさいのが玉にキズ。見た目の人気とくささは、反比例はしていないようです。

分類の感覚を掴む

──では、そういう分類センスはどうやったら磨けるか。最後に聞きたいのですが。

  こんな好きな話があります。テレビ番組で陶芸家の濱田庄司さんが大皿に釉(ゆう)掛けをしていたときのことです。レポーターが「すごいですね。一瞬ですね」と言ったら、「いえ、いえ、60年と1秒です」みたいなことを言ったんです。たぶん、若い頃から何十年も、釉掛けのパターンを死ぬほど失敗してきたから、一瞬で見事に手を動かせるようになったと思うんです。
  サッカーのネイマールも同じで、ボールをパスする時も、子供の頃からいろんなボールを蹴ってきて、今、この瞬時の体の動きやボールタッチをチョイスしている。

──たぶん明確に自分の中で分類できているということですよね。

  はい。ただ、その選択は意識下ではなく、無意識下で行われているということが肝です。もう一つ例を挙げるなら、「ゆうじ」という有名ホルモン屋があって、僕はオープン当初から25年通ってます。ゆうじ君はホルモンの部位やその状態によって塩の振り方を変えると言うんですが、「1万通りくらいあるはずですよ」と。もちろん、彼が「今のは1万通りのうちの6352番目」と考えているわけはなく、概念と実際は違うのです。でも、自分の中では1万通りと感覚的に俯瞰できている。人間はそのくらいの分類が無意識下で可能。だから、分類の感覚を掴んでもらうためにも、まずは10種類のチャートに当てはめてみてほしいのです。知らないうちに「分ける力」がつくと思います。

Kengo Ishiguro

1961年金沢市生まれ。講談社『PENTHOUSE』、『Hot-Dog PRESS』の編集者を経て、93年から書籍の執筆、プロデュース・編集、発想系プランニングも手がける。著書は、映画化されたベストセラー『盲導犬クイールの一生』、糸井重里氏に高評価を得た『2択思考』、“分類王”の『図解でユカイ』ほか、『エア新書』『ダジャレ ヌーヴォー』『カジュアル心理学』『CQ判定 常識力テスト』『ベルギービール大全』など幅広いジャンルで多数。プロデュース・編集した書籍も、『ジワジワ来る○○』(片岡K)、『負け美女』(犬山紙子)、『ナガオカケンメイの考え』(ナガオカケンメイ)、『ザ・マン盆栽』『読む餃子』(以上、パラダイス山元)、『ネコの吸い方』(坂本美雨)、『人が集まる「つなぎ場」のつくり方』(ナカムラクニオ)、『凄い! ジオラマ』(情景師アラーキー)など200冊以上。近刊著書は、『分類脳で地アタマが良くなる 〜頭の中にタンスの引き出しを作りましょう』(KADOKAWA)。